経済・企業

独メーカーの高級EV路線が普及の壁 テスラと中国勢に蚕食されかねず補助金止めた独政府 川端由美

方針を転換したドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長 Bloomberg
方針を転換したドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長 Bloomberg

 電動化を推し進めてきた欧州メーカーだが、EVの販売落ち込みを受け、戦略の見直しを迫られている。

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 ドイツ自動車工業会(VDA)は「2030年までに約1500万台の電動車(EV/PHV〈プラグインハイブリッド車〉/FCV〈燃料電池車〉)を普及させる」という野心的な目標を打ち出しており、これまでも強烈に電動化を推し進めてきた。しかしながら、今年になってVDAは、“EV一本足打法”から脱却し、多様なパワートレーンの開発を促す方向へかじを切り始めたのだ。

 その背景には、二つ理由がある。第一にドイツ政府が23年末に補助金を打ち切ったことにより、24年2月のEVの販売は前年同月比15%減という急速な落ち込みを見せている。第二に、ドイツでは高級車ブランドを中心にEVのラインアップが展開されており、2万5000~4万ユーロあたりのエントリーモデルがほとんどない。一般の人の手に届く価格帯でEVが提供されていないことが、電動化を阻んでいる。

「1500万台」のVDAの目標に対して、ドイツにおける電動車の累計登録台数はまだ約100万台に過ぎない。フォルクスワーゲン(VW)の電動車のエントリーを担う「ID.3」が市場に送り出されたのが19年末であることに鑑みると、新車販売のうち4台に1台がEVというところまでこぎ着けたものの、補助金による加速があったことは否めない。

 ドイツでは、EVの普及を後押しする政策「環境ボーナス」があった。22年からEVは新車購入時に国から最大6000ユーロの補助金があり、さらに自動車メーカーから最大3000ユーロの値引きを受けられていた。23年以降、バッテリーEV(BEV)やFCVへの補助金は3000~4500ユーロに下がり、24年からは全廃された。20年7月に連邦政府分助成額が倍増されて以降、ドイツ国内の新車登録台数は、20年7月にはBEVが5・3%、PHVが6・1%だったものが、22年11月にはBEVが22・3%、PHVが17・1%に急進していた。これまで「環境ボーナス」の助成を受けた154万5408台のうち、BEVは87万4357台、PHVは67万732台、FCVは319台となっている。

弱気のBMW、強気のVW

 ドイツメーカーの中でも、明暗が分かれている。EV化に積極的な姿勢をとるメルセデス・ベンツは、「30年に目標を“市場が許す限り”新車販売の全てを電気自動車(EV)にする」という計画を撤回した。30年以降、PHVのようなエンジンを積んだ電動車を販売する。より厳しくなる排ガス規制に対応した新しい内燃機関の開発も進めている。従来、25年にはEVとPHVが50:50になると目標を設定していたが、20年代後半へと修正した。事実、23年におけるEVとPHVの販売比率は20%にとどまり、24年は横ばいの見通しだ。

 一方、EVに…

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