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半固体、ナトリウムイオン、硫化物系全固体、リチウム硫黄――開発進む次世代電池 東哲也

トヨタが開発を進める全固体電池 トヨタ自動車提供
トヨタが開発を進める全固体電池 トヨタ自動車提供

 安全性や充電時間で課題を抱えるリチウムイオン電池(LiB)に代わる次世代のEV用電池の開発が進んでいる。

>>特集「EV失速の真相」はこちら

 蓄電池市場の8割を占めるのが高性能なリチウムイオン電池(LiB)で、今後も比率が拡大していくことが予測される。このLiBの需要をけん引するのが電気自動車(EV)、ハイブリッド車などの電動車で、LiB市場の8割を占めている。

 LiB需要が拡大する最大の理由はエネルギー密度が最も高いことだ。エネルギー密度とは電気をどれだけ貯蔵できるかを示すもので、高いとEVでは1充電航続距離が延びる。エネルギー密度は電極(正極、負極)容量と電圧の積で表され、これを重量で割ると重量エネルギー密度、体積で割ると体積エネルギー密度となる。重量エネルギー密度が高いと軽量化、体積エネルギー密度が高いと小型化が可能だ。

 またLiBはCレート(充放電速度)も比較的高い。Cレートは高いほど充放電速度が速くなる。1Cは1時間、2Cは30分、3Cは20分で充放電できる。さらにLiBはコスト面においても過去10年間で90%以上減少しており、最も低い鉛電池のレベルに近づいている。このようにLiBは性能面、コスト面で優位といえる。

安全性や充電で懸念

 一方、EV普及に向けてLiBの課題も顕在化している。最も顕著なのがその安全性だ。LiBは急速充電や低温環境充電を繰り返すと負極電位が下がり、負極からリチウム金属が析出する。この金属リチウムがセパレーターを貫通して正極に達し、ショートを起こすと酸化物の正極から酸素を放出して熱暴走に至り、可燃性の有機電解液が発火を助長させる。実際、発火に至るケースは少ないものの、問題が報告されている。

 また長い充電時間もEV普及を妨げている。日本の急速充電規格は「CHAdeMO(チャデモ)」だが、最大出力150キロワットでも10分以内に満充電できるEV車両はない。

 加えて、LiBに使われるレアメタル(リチウム、ニッケル、コバルト)は偏在性が高く、材料安定調達に課題を残す。生産国はリチウムがオーストラリア、チリ、中国、ニッケルがインドネシア、フィリピン、ロシア、コバルトがコンゴ民主共和国、ロシア、オーストラリアが中心だが、このうちコンゴは政情が不安定な上、コバルト生産の7割以上を占める。実際、ニッケルはロシアのウクライナ侵攻を契機に2022年4月に急騰したほか、炭酸リチウムが同年11月に最高値を記録した。

 こうした中、既存のLiBと同等以上の性能を備え、かつ高安全性、急速充電性能に対応する自動車用蓄電池の実用化も進んでいる。具体的には、生産中の半固体電池、ナトリウムイオン電池(NaiB)、近く生産開始見込みの硫化物系全固体電池やリチウム硫黄電池だ。

 半固体電池は、正極と負極に電解液をあらかじめ含浸またはゲル化した電解液で正・負極を包み込んだ…

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