電池に必須のコバルトは「命を削って掘る石」だった コンゴ民主共和国からの報告 華井和代
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EV用電池を支えるコバルト産出国・コンゴでは何が起きているのか。消費者一人一人が目を向けてほしい。
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電気自動車(EV)の拡大を受けて、希少金属(レアメタル)の一つであるコバルトの生産量が世界的に増加している。二酸化炭素を排出しないEVが気候変動対策の切り札として普及する一方で、EV用電池に欠かせないコバルトの産出量トップのコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)では、鉱山での労働問題や児童労働などの人権問題が起きている。
コンゴは中央アフリカに位置する。南部や東部は鉱脈に恵まれ、特にコバルトは世界産出量の約7割を占める。コバルトは、EV用電池の主流であるリチウムイオン電池の「正極」という部品の原料になる。しかし、世界有数の資源産出国とされるコンゴは逆に、世界で最も貧しい国とされる。
鉱物の採掘には二つの方法がある。一つは企業の大規模採掘だ。南部のコバルト鉱山では、外国企業とコンゴ政府の合弁で採掘される。鉱山の表土を重機で掘削する「露天掘り」が進められ、ベルトコンベヤーなどを使って土石から鉱物を取り出す。大規模採掘での労働には技術が必要で、労働者は企業に雇用される。
もう一つは小規模手掘り鉱だ。治安が悪い、岩盤が硬くて露天掘りができないなどの理由で企業が操業していない鉱山では、採掘者がシャベルなどの人力で坑道を掘り、土石を掘り出す。その土石を川などで洗って鉱石を取り出し、袋に詰めて町の取引所に運ぶ。そして取引人を通じて、国外の企業に売る仕組みだ。コンゴ産コバルトのうち、7、8割は大規模採掘で、2、3割が小規模手掘り鉱で生産される。劣悪な労働環境や児童労働などの人権問題が生じやすいのは、小規模手掘り鉱だ。
地域分配は2%
現地調査するNGO(非政府組織)によると、小規模手掘り鉱山周辺の世帯収入は平均より低く、7割の家庭が十分な食事を得られない不安を抱える。採掘道具を買うための借金が鉱山労働者を弱い立場に追いやり、管理者に抵抗できない状況を生むこともある。採掘事故で亡くなったり、大けがを負ったりしても補償がない。
鉱物のサプライチェーン(供給網)では、鉱物を加工して製品化するプロセスに付加価値が生まれる。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)の研究者が、コンゴ東部で採掘される鉱物の利益分配を分析したところ、コンゴ国内には利益全体の12%しか分配されず、採掘者にはその17%、つまり全体の2%しか行き渡らないとしている。世界経済にとって重要な鉱物を採掘しているのに、労働者の収入は少なく、厳しい労働環境・生活環境に置かれている。
18歳未満の児童労働も深刻だ。幼少の時は鉱石を洗ったり選別したりする仕事を担い、成長するにつれて坑道を掘ったり鉱石を運んだりする仕事が増える。教育を受けないことで権利意識を持てず、過酷な労働環境を改善する意思を失う問題…
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週刊エコノミスト
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