香港「国安条例」施行で邦人に「スパイ罪」リスクも 佐藤大輔
有料記事
中国が制定した香港国安法の穴を埋める新法が3月に成立・施行された。予想外の拘束などを避けるために、注意すべき点は何か。
>>特集「身構える香港」はこちら
香港政府は2024年3月8日、香港基本法(ミニ憲法に相当)23条に基づく「国家安全条例(Safeguarding National Security Bill)」の草案を香港議会に提出した。香港議会は親中派が議席のほとんどを占めており、予想より早く3月19日に法案を可決、23日に施行された。20年6月30日に全国人民代表大会(全人代)の主導で「香港国家安全維持法(国安法)」が制定されたが、この条例はそれを補完する。最高刑は終身刑で、域外適用されるため、日本人が日本で行った行為が違法で、もし香港を訪れた時、適用される可能性もある。香港基本法と香港国家安全維持法を専門に研究している大東文化大学国際関係学部の廣江倫子准教授への取材を基に、今回の全9部190条からなる国安条例のポイントを解説する。
反逆や反乱を摘発
香港基本法23条は、国家への反逆、分裂、反乱の扇動、国家機密の窃取、外国の政治組織や団体の香港での政治活動などを禁じる法令を香港が自ら立法しなければならないとしている。今回、その規定に沿って法制化作業が進められた。
香港政府は03年に同条例の可決を目指した。しかし、条文が曖昧でレッドライン(越えてはならない一線)が不明瞭だったため香港市民が反発。香港の中国返還記念日である7月1日に50万人規模のデモ(主催者発表)が行われた。当時も多数派だった親中派が強行採決をする動きも見られたが、親中派政党の自由党が採決延期の立場に転じるなどがあり法制化を断念。同年9月5日に撤回した。
香港市民にとっては「民意で政治を動かすことができる」という成功体験となり、14年の雨傘運動や19年の約200万人(主催者発表)を動員したデモにつながっていく。
その後、政治家も官僚もトラウマになったのか法制化への動きは鈍かったが、20年の国安法制定で潮目が変わった。19年のデモに衝撃を受けた中国政府は23条立法の法制化に腰が引けている香港政府を横目に自分たちで国安法を作ったのだ。
とはいえ、国安法ではすべてをカバーしきれない。23条の立法化は依然として重要だった。香港に詳しい関係者は「20年5月28日に全人代が『23条立法を作りなさい』と言ってから4年が経過し、22年に李家超(ジョン・リー)氏が行政長官になってからも2年がたっているので、香港政府が積極的に法制化したかったのか……。23年12月18日に李行政長官と習近平国家主席が対面しているが、その時に何か言われたようだ」と見る。
こうして法制化が本格化したが、犯罪について規定する箇所は大きく分けて五つのパートに分かれる。
一つ目は「反逆」だ。最高刑は終身刑と重い。廣江氏は、「注意すべき点とすれば、中国主権、香港の安全などに関する危害を意図した香港での暴力を規定した15条(d)だ。19年の抗議活動を念頭においたことが諮問文書で言及されている」と解説する。とはいえ、反逆に関する規定の多く…
残り1549文字(全文2849文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める