国際・政治

香港株式市場は「一潭死水」 証券業界に焦りとあきらめ 瀨﨑真知子

IPO調達額ランキングで、香港取引所はインド国立証券取引所に抜かれ6位に転落した。写真は香港取引所が入るビル(筆者撮影)
IPO調達額ランキングで、香港取引所はインド国立証券取引所に抜かれ6位に転落した。写真は香港取引所が入るビル(筆者撮影)

 英国による1997年の返還から27年。中国政府の香港統制は新たな段階に入った。

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 国際金融センター・香港を支えてきた花形の証券業界で、比較的給与水準の高い中堅・ベテラン社員のリストラが止まらない。香港株式市場の低迷で取引手数料が減少し、収益が悪化しているためだ。金融業界全体の業況が悪化しているため再就職も難しく、解雇された社員らの間では焦りやあきらめムードが広がっている。

「今の香港株は『一潭死水』だ」。約4カ月前に外資系証券会社から突然解雇された、香港人の証券アナリスト、トニーさん(仮名、40代)はあきらめ気味に話す。「一潭死水」とは、深くて流れのないよどんだ水のこと。株式市場への資金流入が乏しく、相場全体が停滞した状況を言い表している。アナリスト歴15年だが、「香港の金融業では仕事をうまく探せない」と話し、「キャリアチェンジも考えている」と言う。

地場証券の廃業続く

 好調な日本株とは対照的に、香港市場は明るいムードに乏しい。香港ハンセン指数は下落傾向が止まらず、2024年1月下旬には節目の1万5000ポイントを割った。3万ポイントに迫った21年1月下旬の半分程度だ。香港市場は時価総額の約8割を中国本土企業が占めており、本土の景気減速の波を直接受ける。2月の春節(旧正月)の連休明け以降、やや持ち直したとはいえ軟調な展開が続く。

 その影響に翻弄(ほんろう)されているのが地元の中小証券会社だ。香港取引所によると、23年に自主廃業を発表したのは老舗中堅を含む計32社。過去最多だった前年の47社より減ったが、苦しい状況を映している。24年も3月26日時点で8社が自主廃業した(図1)。

 アナリスト歴18年のウィンストンさん(仮名、40代)は23年末、自分から見切りをつけて退職した。「今後、香港株のみを専門に扱うことはない」と言い切る。グローバル市場向け資産運用などのポジションで転職先を探すが「企業が組織再編を進める中、自分のような比較的給与水準の高い中堅以上が仕事を見つけるのは難しい」と話す。

 香港に本社を置く「信誠証券」のアソシエイトディレクターの張智威さん(46)は「業界関係者の大半は先行きを悲観している。出口がみえないためだ」と言う。「昼間は会社で仕事をこなし、勤務後は副業する人もいる」と語る。筆者は「知人3人が自死した」(証券業界関係者)との話も直接聞いた。

 香港の証券・商品先物業界の労働組合「香港証券及期貨専業総会」によると、全組合員のうち2月末時点で更新手続きをしなかった人は28人で新規加入者の20人を上回り、39カ月ぶりの純減となった。他業種へ転職する人が多いためとみられる。

 マイケルさん(仮名、40代)も他業種への転職組だ。大卒後、会計事務所勤務などを経て、アナリストやストラテジストとして地場や外資系の金融機関を渡り歩いた。22年に離職し、香港の商業施設の管理を手掛ける。英国への家族移住の準備を進めている。目下の課題には「自分の将来の方向性が見えないことだ」と即答した。

 経歴を生かしてユーチューバーやインフルエンサーに転身した人もいる。香港証券業界歴42年のベテランアナリスト(65)は、「丁Sir」のハンドルネームで、SNS(ネット交流サービス)で情報発信して収入を得ている。約2年前に地元証券会社を退職した。「会社が求める業績目標が非常に高く、プレッシャーが大きかった」と話す。職場ではオンラインを除く販促活動を取りやめ、従業員の約半数が解雇されたという。「今後も(自分の)ファンのために活動を続ける」と前向きだ。

 香港証券及期貨専業総会の陳志華会長(45)は「(足元で香港の)金融システムが弱まっている」としたうえで、株式取引の印紙税引き下げや、新興市場「GEM」改革を巡る対応など香港政府や香港取引所が誤った施策を打ち出したことも要因と指摘した。「株式市場と経済減速は、政治による負の影響を受けている」とも語る。

 特に地場の中小証券は資本力が弱く、組織再編や人員削減を含むコスト削減に手を尽くしたものの、やむな…

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週刊エコノミスト

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