HV絶好調のトヨタ いずれ必須なEVシフト 中西孝樹
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HVが絶好調のトヨタだが、脱炭素時代へ備えは万全なのか。EVの競争力を確立しなければ、近い将来、収益性を痛める可能性もある。
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トヨタ自動車の好業績が勢いを増している。2024年3月期は傘下のダイハツや豊田自動織機の不正影響(結果的に2600億円の営業減益影響)を被ることになるものの、第3四半期で上方修正した営業利益4.9兆円、最終(当期)利益4.5兆円の予想を更に超える勢いがあるようだ。足元の営業利益率では米テスラを逆転した(図1)。
この高い収益力の源泉はどこにあるのか。自動車セクターの収益を引き上げている要因は3点ある。第一に新車販売環境が引き続き残存していること。第二に半導体供給不足の緩和に伴い生産数量が好転し、高収益な北米向けの出荷が大きく伸長していること。そして、第三に23年10~12月期平均で1ドル=148円という歴史的な円安水準である。
これら増益要因は自動車各社に共通する。目を見張るトヨタ固有の稼ぐ力には、①「損益分岐点経営」の努力の積み重ね、②その原動力となる金融・部品・中古車などのバリューチェーン収益の拡大、③コロナ危機の中で見つけた改善要因を危機が去った後でも徹底的に継続させるトヨタらしい愚直さ──がある。
今年もHVは100万台増
もう一つ、見逃せないのが勢いが加速化しているハイブリッド車(HV)の好調だ。23年暦年にHVの販売台数は345万台に達し、22年から33%も増加した。好採算な北米地域が台数をけん引し、現在のHVの1台当たり平均営業利益はトヨタの全体平均よりも10万円も高いといわれている。24年も勢いに変化はなく、HVは100万台程度は増加するとトヨタは予想する(図2)。来期も好調な業績伸長が期待できるだろう。
トヨタはHVの収益力を最大限に引き出し、その財務基盤を基にモビリティー企業への転換と内燃機関車(ICV)や電気自動車(EV)、HV、燃料電池車(FCV)とさまざまなパワートレーンを用意する「マルチパスウエー」で実現する持続可能なモビリティー社会を目指している。
EVの販売は勢いが陰っている。米国においては2月にHV市場がEVを上回り最大の電動パワーユニットとなった。EV需要は昨年夏以降急速に陰りが見え、足元は大変売りづらい商品となった。その結果、在庫とインセンティブ(販売奨励金)の上昇が続いている。
EVは普及サイクルの「キャズム」に落ちている。キャズムとは新商品や技術を浸透させる際に発生する「深い溝」だ。裕福で新体験を求める「アーリーアダプター」はEVに飛びついた。その需要が一巡したところを景気減速や金利上昇が市場を襲っている。
その先に存在する巨大な消費者層である「アーリーマジョリティー」は実利主義者と考えられ、メリットがなければEVは購入しない。しかし、実利主義者に響くEVの価値はいまだ確立できていない。
その実利主義者に強くアピールしているのが地域のエネルギー事情やユーザーの使い勝手に寄り添うHVというわけだ。省炭素を実現できるHVやプラグインハイブリッド車(PHV)の導入は確実に増大し市場をけん引するだろう。
それではHVで断トツのトヨタの収益性は盤石であるか。短・中期的にはリスクは低そうだが、中・長期には新たな危機も懸念される。需要と規制の双方でEVシフトの波が再…
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週刊エコノミスト
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