次の“稼ぎ頭”になれる新興国は「人口ボーナス」を活用できたアフリカ・南アジアの国だ 谷村真
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世界の人口の9割弱を占める新興国。これまではアジアの国々の成長がけん引してきたが、今後はアフリカで生産年齢人口の増加が見込まれ、先進国との経済規模の差は縮小していく。
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昨今の国際情勢は、経済分野では米国と中国が通商摩擦や技術覇権争いなどで対立する構図が鮮明化している。中国の著しい経済成長の結果、経済規模が拡大し、GDP(国内総生産)世界第1位の米国に迫っていることが背景にある。米中という2大経済大国は、同時に人口大国でもある。中国は2023年中にインドに世界最大の人口大国の座を譲り渡したとみられるが、それまでは世界人口第1位、米国は第3位だった(表)。
それでは、「人口大国=経済大国」なのだろうか。必ずしもそうではない。米中を除くと、20年の人口上位10カ国のうち、インドのみが経済規模でみた上位10カ国入りしており、人口と経済規模や経済発展の関係は単純ではない。新興国の人口規模は20年時点で世界全体の86%を占めているが、GDPのシェアは40%に過ぎない(図1)。
これは、先進国では人口1人当たりの生産、所得、支出額、すなわち1人当たりGDPが新興国よりも多く、経済的により豊かであるため、人口規模のみでは経済規模が決まらないことを示している。実際、20年の世界GDPの上位10カ国のうち、新興国は中国、インドの2カ国のみであり、その他は日本や欧州などの先進国となる。
GDPの決定要因を単純化して人口要因とその他要因に分けて考えると、人口要因では人口が増えると供給面では生産活動に必要な労働者が増えるため、GDPの増加要因となる。これは、人口増によって国全体の所得や支出(消費・投資)が増えることも意味する。
一般的に、経済成長は労働と資本の投入量に加え、これらでは説明できない部分(全要素生産性)に分解される。労働投入は主に人口と人口構成(全人口のうち何割が働き手となるか)に対応し、資本も、人口が増えると発電所、道路、鉄道、空港など各種インフラが必要となるため、人口との関係が密である。
有利な「人口ボーナス」
人口構成のうち、とりわけ重要なのは、人口ピラミッドでおなじみの年齢構成である。同じ人口の国でも、労働力人口が多い方が労働投入量が多いため、経済規模が大きくなる。また、若い世代が増加すると、新しいアイデアが生まれ、イノベーションが促進される要因となることから、内閣府の試算では労働力人口の増加は生産性上昇をもたらす結果となった。
他方、高齢化は過去の貯蓄を取り崩して生活する高齢者の割合が増えることで、経済全体で見た貯蓄が減少し、投資の減少を通じてGDPの押し下げ要因となる。高齢者の増加による社会保障費の拡大も成長を抑制する。したがって、GDPと人口の関係は、人口そのものの規模だけではなく、人口構成がどう変化しているのかなどを含めて考える必要がある。
実際、データが入手可能な184カ国を対象に、20年と00年を比較して、人口の伸びとそれ以外(1人当たりGDP)のどちらかが実質GDP成長率と相関性が高いかを比較すると、生産性に近似する1人当たりGDPの伸び、すなわち人口の伸び以外の要因の方が、成長率との相関性が高いことが確認された。
これらから、人口が増加すること、また生産年齢人口(15〜64歳)がそれ以外の従属年齢(15歳未満、65歳以上)人口に比して多いことは、経済成長にとって有利である。このような人口状態を「人口ボーナス」と呼び、逆の状態は「人口オーナス(負担)」と呼ぶ。
経済発展の初期段階では、生産年…
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週刊エコノミスト
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