米中などで顕著な格差拡大 “共同貧困”の日本 宮本弘暁
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世界人口の3分の2が所得格差拡大の影響を受けている。経済のグローバル化や技術進歩、税制などが格差拡大をもたらす要因となっている。
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ここ数十年、多くの国で所得と富の格差が拡大している。この格差は、社会的な不満を引き起こし、社会の結束力を弱め、政治の分断を深めるなど、さまざまな問題の根源となっている。格差問題は今秋の米大統領選においても重要な議論のテーマとなっている。バイデン米大統領は富裕層と大企業に利益をもたらし連邦赤字を増大させたトランプ前政権の減税策を批判し、格差是正を目指す姿勢を強調している。
格差とひとことで言っても、所得格差、富の格差、機会格差、ジェンダー格差などさまざまある。これらの格差は単独で存在するのではなく、互いに深く関連する。特に目立つのは所得格差の拡大だ。この傾向は先進国だけでなく新興国でも見られ、世界人口の約3分の2が影響を受けている。所得格差の拡大は、先進国では特に米国、新興国では中国、インドで顕著となっている。
各国の所得格差を測るうえで近年注目されている指標に「所得占有率」がある。これは、各国の人口を所得階層によって区分し、上位1%や下位50%といった人々の所得が、社会全体の所得のうちどの程度を占めているかを示すものだ。世界的なベストセラー『21世紀の資本』で知られる仏経済学者トマ・ピケティ氏らが参加する「世界不平等研究所」が、各国の所得占有率の推計を「世界不平等データベース」で公開している。
図1は、米国の上位1%と下位50%の所得が、国民所得に占める割合の推移を示している。1900年代前半、トップ1%の富裕層の所得占有率は高かったが、時間がたつにつれてその割合は低下し、70年代にはかつての半分、1割程度まで落ち込んだ。しかし、80年以降、このトップ1%の所得占有率は再び上昇しはじめ、その傾向は現在まで続くU字型を示している。
一方で、下位50%の所得占有率はこの期間、逆のパターンを示し、特に新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)後には急激に低下している。2020年には下位50%の国民所得に占める割合は1割を下回る一方、上位1%の割合は2割を超えた。なお、こうしたトップ1%の所得占有率のU字型の動きは、米国だけでなくイギリスやイタリア、カナダでも確認されている。
損なう成長の持続可能性
日本の状況はどうだろうか。日本でも20世紀前半から中盤にかけて、トップ1%の所得シェアが大きく低下した(図2)。しかし、その後は大幅な上昇は見られず、足元ではトップ1%のシェアは1割強と下位50%のシェアを下回る。トップ1%の所得占有率はU字型ではなくL字型のパターンを示しており、所得分配が比較的安定した傾向は、フランスやスウェーデンなどでも見られる現象だ。
ところで、格差は何をもたら…
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週刊エコノミスト
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