中国経済に“日本化”懸念? 爆買いからコスパ重視へ 月岡直樹
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かつて2ケタ成長によって世界経済をけん引した中国。しかし、人口減少なども重なり、成長力は3%割れも視野に入り始めた。
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2023年の中国経済は実質GDP(国内総生産)成長率が前年比5.2%増で着地し、政府が目標としていた「5.0%前後」の成長を達成した。しかし一見、堅調に見えるその裏で、名目GDPを実質GDPで割って求められるGDPデフレーターが15年以来のマイナスとなっていた(図1)。名目GDP成長率の伸びが実質GDP成長率の伸びを下回ったということである。
GDPデフレーターは、国内要因のインフレ(ホームメード・インフレ)を示す指標で、そのマイナス化は内需不足による強いデフレ圧力が生じ、景気の停滞感が強まっていることを意味する。背景には需要不足による消費の低迷があり、小売売上高を示す社会消費品小売総額は22、23年の2年平均で3.4%しか伸びていない。コロナ前の19年が8.0%増だったのに比べて弱さが目立っている。
図2は国家統計局が発表している消費者信頼感指数である。消費者のマインドが新型コロナウイルス禍の上海ロックダウンで急落したまま、コロナ収束後も一向に回復の兆しを見せていない。雇用・所得環境が悪化したことに加え、大都市のロックダウンという過酷な措置と突然のゼロコロナ解除という政策急転換により、先行き不安から家計の節約志向が強まっているものと考えられる。
銀行システムには耐久性
実際に、中国では節約志向を受けて食品や日用品のディスカウントストアが業容を急拡大させており、賞味期限切れ間近の商品を集めた格安スーパーが人気を集めている。また、最小限の時間とお金でできるだけ多くの観光スポットを巡る「特殊兵式旅行」と呼ばれる弾丸旅行が若者の間でブームとなっている。中国人の消費スタイルは明らかに「爆買い」からコストパフォーマンス重視へと変化している。
では、中国経済はデフレに陥ったのであろうか。「物価全般の持続的な下落」というデフレの定義に照らせば、現状はデフレではなくディスインフレ(物価上昇率の低下)と評価できる。消費者物価指数(CPI)は24年1月まで4カ月連続のマイナスとなったが、このマイナスは食品・エネルギー価格の下落によるところが大きく、食品・エネルギーを除くコアCPIは低い伸びでありながらもプラス圏を維持しているためである。
もっとも、価格競争が激しい耐久消費財(家電・家具、輸送機器、通信機器)は軒並みマイナスが続いている。このまま消費者マインドの低迷が続いてデフレマインドが定着すれば、自己実現的に中国経済がデフレに陥るリスクも排除できない。
中国のディスインフレ傾向が強まるにつれ、中国経済が「日本化」するのではないかとの懸念が高まっている。不動産バブルの崩壊をきっかけに、債務圧縮を迫られた家計と企業が消費や投資を減らすことで不況に突入し、需要不足からデフレが深刻化する。さらに、不良債権処理の過程で金融機関の破綻も相次ぎ、人口動態などの構造要因も重なって経済が長期停滞に陥る、というシナリオである。
ただ、結論から言えば、中国経済が日本のように急激な過剰債務の調整を迫られ、デフレスパイラルに陥るリスクは低いとみられる。確かに、不動産価格が高騰して企業部門が過剰な債務を抱えている点は、バブル期の日本と酷似しているが、中国政府は不動産価格の暴落や金融のシステミックリスクを食い止める統制力を有しているからである。
中国では住宅ローンの不動産担保の掛け目が価格の7割以下に抑えられており、不動産価格が3…
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週刊エコノミスト
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