秩序変動期にある世界――戦火のウクライナ・ガザ、台頭するグローバルサウス 佐藤丙午
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グローバル化の進展で一時は国境が相対化されるとの主張もあった。しかし、国家間の対立と緊張がそれぞれを内向きにしている。
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ウクライナ戦争が2022年2月に始まってから2年が経過した。厳密にいうと、ロシアのウクライナ侵攻は14年のクリミア併合などから始まっており、「10年」というのが正確かもしれない。ロシアのウクライナに対する大ロシア主義(ロシアを中心としたスラブ民族の統合)の主張は、ロシア革命前の1917年まで存在したロシア帝国に回帰する歴史的なものであり、この基調が変化する可能性は低い。
今年3月のロシア大統領選挙では、プーチン大統領が9割近い得票率を得たとして再選された。今後、たとえプーチン大統領が退場したとしても、その基調はロシアの次の世代にも引き継がれるだろう。そして、ウクライナが戦争で受けた傷も、世代を超えて引き継がれるだろう。その傷の本質は、ロシアに対する恐怖である。ロシアに対する恐怖は、欧州諸国も同様に感じている。
欧州では、NATO(北大西洋条約機構)の結束が強調され、ロシアと国境を接するフィンランドが昨年4月、スウェーデンが今年3月にNATOに加盟した。NATOでは今後、核兵器による抑止を中心に、ロシアがウクライナ侵攻初期に展開した電撃戦(航空機と戦車が一体となった短期間での集中突破作戦)を警戒しつつ、軍事・非軍事両面のロシアによる影響力行使をはね返す手段を開拓していくことになる。
つまり、国際社会は流動化の時代に入った。中東では昨年10月、パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した後、イスラエルがガザ地区でのハマス掃討作戦に乗り出し、同地区で3万人以上の犠牲者が出ている。中東ではイスラエルに対する不信感が域内諸国に深く沈殿し、これを支援した欧米諸国への不信感にもつながっている。
国際社会でこのところ目立つのが、「グローバルサウス」と呼ばれるアジアやアフリカ、中南米といった南半球に多い新興・途上国の台頭だ。もはや途上国として先進国から配分を求めるのではなく、国際社会に影響力を行使するプレーヤーを目指しており、中国とインド、ロシア、ブラジル、南アフリカ5カ国で構成するBRICSには今年1月、サウジアラビアやイラン、エチオピアなど新たに5カ国が加わった。
軍事大国化した中印
有力な新興国の台頭は、周辺諸国に新たな緊張をもたらす。特に顕著なのがインド太平洋地域であり、中国は00年代前半まで軍事支出は日本より少なかったが、経済成長に伴っていまや米国に次ぐ世界2位の軍事大国と…
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週刊エコノミスト
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