世界の分断とブロック化が貿易の“フレンドショアリング”と投資の“スローバリゼーション”を促進 伊藤博敏
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「経済安全保障」が叫ばれる中、世界の貿易・投資動向に変化が起きている。こうした動きが加速すれば、一層の停滞と分断を招きかねない。
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米中覇権争いの常態化、ウクライナ紛争の長期化、中東情勢の緊迫化など、今日の国際情勢の変化は、自由で公平な貿易・投資の秩序をゆがめ、世界経済を分断させるリスクをもたらしている。主要国・地域による貿易・投資政策の変化や相次ぐ関連規制の導入は、経済効率性に基づくグローバル企業のビジネス戦略を変えつつある。
国際通貨基金(IMF)は今年1月、2024年の世界の物品・サービスの貿易量の成長率を前年比3.3%、25年については3.6%と予測した。23年の0.4%からは回復する一方、過去の長期的な平均成長率4.9%を下回る水準が続く。世界貿易の伸びを下押しするのは、自国本位の政策介入などに伴う貿易の「ゆがみ」の増大と地政学的なサプライチェーンの分断化の進展だ。
通商政策監視機関グローバル・トレード・アラート(GTA)のデータによれば、各国が導入する新たな貿易制限措置の件数は、新型コロナウイルス禍前(19年)の約1100件から、23年には約3000件に増加したという。コロナのパンデミック(世界的大流行)や米中間の技術覇権争い、ウクライナ紛争に伴う食料やエネルギーの供給混乱が、各国の保護貿易的な措置の導入を加速させた結果である。
また、今日のパレスチナ自治区ガザ地区の紛争を発端とする中東情勢の緊迫化は、物流の混乱や海上輸送コストの上昇など、すでに貿易への負の影響をもたらしているが、紛争の広がりによっては一段の供給ショックを引き起こすリスクをはらむ。
西側の対露輸出が激減
世界貿易の分断化の兆しは、主要国・地域間の貿易フローに徐々に表れ始めている。表は、世界の主要な輸出国・地域(縦の項目)、および輸入国・地域(横の項目)の関係を表す。表中の数値は23年上半期(1~6月)の輸出額を21年上半期と比較した伸び率である。
同期間における世界全体の貿易額の伸び率(11.6%増)に対し、主要国・地域間では、特に米国、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)締約国からEU(欧州連合)向けの輸出(43.2%増、38.8%増)、USMCA域内(22.7%増)などの伸び率が高い。米国からEU向けの輸出の伸びは、ウクライナ紛争を機にEUがエネルギーの脱ロシア依存を図り、米国からの天然ガス調達を拡大したことも背景にある。
一方、主要国・地域と中国との輸出入は、中国からASEAN(東南アジア諸国連合)、ロシア向けの輸出を除き、軒並み世界全体の伸び率を下回る。中国国内経済の低迷に加え、米国による中国製品への追加関税措置や中国向け輸出管理規制の強化も、主要国の対中貿易に影響を与えた可能性がある。他方、対ロシア輸出の動向では、米国やU…
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週刊エコノミスト
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