BEVの販売鈍化とHVの好調はBEV本格普及に向けた“助走” 杉浦誠司
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環境に優しいクルマとして期待を集めていた電気自動車(EV)だが、充電インフラの不足や中古市場での低い評価などに直面している。
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電気自動車(EV)に多くの消費者が関心を抱いている。EVは走行中に二酸化炭素(CO₂)を排出せず、地球温暖化対策の観点からは環境に優しい。購入する際には補助金が受けられることも消費者に訴求する。走行中に電気切れになるリスクはあるが、充電インフラは今後増えていく見込みだ。そして、何といっても街中で目立つことだろう。
世界を眺めると、2016年に76万台だったEVの販売台数は、23年には1150万台へと市場が急拡大した。東海東京インテリジェンス・ラボでは30年には3000万台に増えると予想する。世界の新車販売に占める構成比も、16年の0.8%から23年には12.7%へ上昇しており、30年には30%へ拡大すると見込んでいる。
この数字はEVといっても「プラグイン車」の話である。一般にEVにはいくつかの種類がある。「クルマの電動化」という意味では、もっぱら電池に充電した電気によって走るEVをBEV(バッテリーEV)と呼び、エンジンを搭載して外部からの充電もできるEVであるPHV(プラグインハイブリッド車)と合わせ、プラグイン車と定義されることが多い。
PHVは、充電できない「プラグアウト車」のHV(ハイブリッド車)に比べて大きな電池を搭載し、より長距離を電気だけで走行できるのでBEVに近い。このほか、水素から電気を作る装置(燃料電池)を持つEV、FCV(燃料電池車)がある。中国では、それらからHVを除いたNEV(新エネルギー車)というカテゴリーが普及政策での対象とされている。
テスラ、BYDなど台頭
日本の自動車メーカーはこうしたクルマの電動化で先行してきた。トヨタ自動車は1997年にHV「プリウス」を世界で初めて世に送り出した。日産自動車は2010年にBEV「リーフ」を世界で初めて量産車として市場に投入した実績を誇る。ただ、今日では日本車がEV、特にBEVやPHVの分野で競争に出遅れているとの指摘がある。
中国では米国の倍近くある年間3000万台の新車市場の規模を生かして、政府による普及政策を追い風に地元新興メーカーが続々と生まれ、NEV市場が急成長してきた。中でも、比亜迪(BYD)や上海工場を持つ米テスラなどが台頭した。
米国でも新興メーカーが相次いで市場に参入し、欧州ではドイツやフランス企業がBEVの品ぞろえ拡大を急いだ。株式市場ではBEVへの取り組みの差が、企業価値評価の大きな決定要素となっ…
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週刊エコノミスト
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