エネルギー供給不安で化石燃料“回帰” 現実的な脱炭素へ業界シフト 小菅努
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気候変動対策として「化石燃料からの脱却」が掲げられたが、そもそも石油需要は伸び続けており、2023年は過去最高とみられる。
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国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が昨年11月30日~12月13日に開催された。エネルギー分野では、2015年のパリ協定で設定された長期目標(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5度に抑える)の達成に向けた軌道に乗っていないとして、初めて「化石燃料からの脱却」に向けたロードマップが承認された。
欧米政府や環境団体などが求めた「化石燃料の段階的廃止」を合意に盛り込むまでには至らなかったが、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のスティル事務局長は、「化石燃料を完全に過去のものにすることはできなかったが、終わりの始まりであることは明らかだ」と総括している。その一方、「化石燃料からの脱却」で世界は歩調をそろえられない現実もあらわになり始めている。
再生可能エネルギーの供給は飛躍的な伸びを見せているが、英BPによると22年の電力供給用燃料に占める比率は再生可能エネルギーが14.4%、水力が14.9%であり、依然として残りの70.7%を石炭や天然ガスといった化石燃料と原子力が占めている。再生可能エネルギーで既存の需要を置き換えるのみならず、将来の増加分もすべて賄うことは荷が重い。
特に、22年に始まったウクライナ危機によるエネルギー価格の高騰と供給不安は、消費国に強い危機感をもたらし、同年の石炭消費量が過去最高を記録するなど、化石燃料回帰のような動きさえ促している。国際エネルギー機関(IEA)は、2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするためには、化石燃料への新規投資はもはや不要としているが、欧米の石油メジャーは逆に化石燃料生産重視の姿勢を鮮明にしている。
BPは昨年2月、30年までに石油・ガス生産量を19年比で40%削減するという計画を撤回し、新たに25%の削減目標を掲げた。英シェルも30年まで液化天然ガス(LNG)の増産を続け、石油は生産量を維持する方針に転換したほか、米エクソンモービルはLNG、海底油田、シェールガス・オイル開発を成長の3本柱に据えており、野心的なエネルギー転換を目指す局面から現実的な脱炭素の道筋を探る方向へシフトしつつある。
まだ伸びる石油消費量
今後のエネルギーミックスは、IEAによると25年初頭に再生可能エネルギーが石炭を抜き最大の発電源になる見通しであり、COP28でも30年までに再生可能エネルギー発電量の3倍達成を目標にしている。しかし、国、地域によってエネルギー市場を取り巻く環境は大きく異なっており、特に主要プレーヤーである中国の政策方針によって見通しは大きく修正される可能性がある。
現状で比較的確かなことは、化石燃料の中で二酸化炭素(CO₂)排出量が相対的に少ない天然ガス、LNG(石炭のCO₂排出量を100とすると、石油は80、天然ガスは57)の重要性が高まる一方、石油は電気自動車(EV)の普及状況にもよるが高止まりする可能性…
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週刊エコノミスト
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