国際・政治

パナマ&スエズが同時に通航支障 影響は限定的でも長期化懸念 後藤洋政/松田琢磨

パナマ運河を通航するコンテナ船。水不足で通航制限が続く(2023年11月)(Bloomberg)
パナマ運河を通航するコンテナ船。水不足で通航制限が続く(2023年11月)(Bloomberg)

 世界の海上物流の要所であるパナマ運河は降水量不足、スエズ運河は紅海情勢の緊迫化により通航が難しくなっている。かつてない事態だ。

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 パナマ運河とスエズ運河は、言わずと知れた世界の海上物流における重要なポイントである。しかし、両運河は今、同時に通航に支障をきたすという、かつてなかった事態に直面している。パナマ運河は降水量の少なさによる水位不足で通航制限がかかり、スエズ運河は中東情勢の悪化により迂回(うかい)を余儀なくされている。現時点では運賃などへの影響は限定的だが、通航支障が解消されるめどは立っていない。

 パナマ運河は船のエレベーターである閘門(こうもん)を使い、26メートルの高低差を乗り越えて太平洋とカリブ海、大西洋を直接結ぶ、長さ約80キロメートルの運河である。通航量は世界の海上貿易量の約3%を占め、特にアジア─北米東岸間の航路で多く用いられており、この航路で輸送されるコンテナの52%に達する。しかし、パナマでは昨年、エルニーニョ現象の影響で雨季(5月から)になっても降水量が少ない状態が続いた。

 パナマ運河は運河内のガトゥン湖の水を使って閘門を動かしているが、降水量不足によってガトゥン湖の水位が上がらなかった。6月以降は同運河を運営するパナマ運河庁が、運河を通る船舶の喫水制限を強化し、通航制限を開始した。10月に通航制限を強化する方針が発表された後、雨が降って水位が回復したため、現在の通航制限は緩和傾向にある。

一時は運賃の上昇も

 一方、スエズ運河は、紅海と地中海を結ぶ約250キロメートルの運河であり、インド洋北西部のアラビア海からロンドンまでの航行距離を約8900キロメートル短縮することができる。アフリカ大陸南端の喜望峰回りに比べ、航行日数を約10日間短縮し、燃料コストも約半分に抑えることが可能である。通航量は世界のコンテナ輸送量の約3分の1、世界の海上貿易量の12~15%に及ぶ。

 ところが、昨年10月中旬にイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスに対する軍事行動を開始すると、11月にはイエメンの親イラン武装組織フーシ派が、イエメン沖を通航する商船に対して攻撃を開始した。日本郵船が運航する自動車専用船「ギャラクシー・リーダー」が拿捕(だほ)されたのもこの時期であり、主要海運会社は12月以降、紅海の通航を回避するようになった。

 米国を中心に「繁栄の守護者作戦」を展開し、航行の安全を守る対抗措置は取られているものの、フーシ派による商船への攻撃は今年2月までに40件を超えた。3月上旬時点ではコンテナ船や自動車専用船、LNG(液化天然ガス)船、LPG(液化石油ガス)船といった船種で、昨年12月前半に比べて9割超の船舶が紅海の通航を回避する事態となり、喜望峰経由へ航路変更を余儀なくされた。

 パナマ運河の通航制限によって進んだのは代替ルートへの移行であった。北米東岸─豪州間の航路では、運河と同じルートを結ぶパナマ地峡鉄道が利用された。また、アジア─北米東岸部の貨物輸送では、ロサンゼルスなど米国西岸またはプリンスルパートなどカナダ西岸の港までコンテナ船で輸送し、鉄道に積み替える方法も進んでいる。

 運賃への影響は、昨年8~9月に上海─北米東岸航路で一時的に運賃が上昇したものの、この動きは持続しなかった…

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週刊エコノミスト

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