インタビュー④「極端な量的緩和で金融政策が効かなくなった」末広徹・大和証券チーフエコノミスト
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量的緩和(QE)を極端に進め、市場にまだ大量に資金が残った状態での利上げには効果がない。(聞き手=浜條元保・編集部)
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── 日銀が3月19日にマイナス金利政策を解除して約2週間が経過した4月初旬時点で、実体経済への影響や世間一般の受け止め方をどうみているか。
■状況は解除前とあまり変わっていないとの認識が広がりつつある。現実問題として長期金利の水準はほとんど変わっていない。変動型の住宅ローンの金利もすぐに上がることはないという説明が、世の中にあふれている。実体経済に対する影響は限定的だろう。円相場も円高が進むという期待があったが、解除前と同水準か、少し円安が進んだ(図)。
マイナス金利解除後、国内メディアは「正常化へ一歩」「大規模緩和から転換」という大きな流れの変化に注目したものが多かったことには、違和感があった。実質賃金の低迷や生産性の低さはマイナス金利政策や異次元緩和政策を始める前からの課題だ。マイナスの政策がなくなったとしても、それは根本的な解決策にはならないと主張してきた。0.1~0.2%の短期金利の引き上げが大ニュースになることが象徴するように、日銀の政策が「小回りが利かない」状態になっている。注目されすぎたし、過大評価だと思う。
このような問題意識は、植田和男総裁自身も同じようだ。総裁は3月25日に公表された特別インタビューで「本来は日銀の存在など意識せずに暮らせるのがあるべき姿だと思います」と述べている。マイナス金利解除が歴史的な出来事として報じられるのは不本意だろう。
白川方明・元日銀総裁も『日経アジア〈英語〉』で「歴史的転換点」との評価は「大げさ」と指摘している(訳は筆者、以下同)。
円高要素がない
── マイナス金利解除のタイミングは適切だった?
■タイミングとしては、異次元緩和の総括をしてからマイナス金利を解除すべきだった。つまり植田総裁が就任時、1~1年半をかけてやる異次元緩和のレビュー(総括評価)後だ。ここで「異次元緩和には2%に物価を押し上げる効果はなかった」と総括して、「副作用が目立つようになったからやめた」とすればよかった。しかし、それがないまま解除したことで、「異次元緩和に効果があった」の前提になってしまった。
懸念されるのは今後、景気回復が頓挫したり、インフレ(物価上昇)率が目標の2%を再び下回る状況になった時に「政策変更が早すぎた」と、日銀の責任にされるリスクだ。2006~07年の早すぎる量的緩和解除と利上げが失敗に終わり日銀が責任を問われた時と同じ構図だ。私は24年度末にはコアCPI(消費者物価指数、生鮮食品を除く)は前年比で1%台前半に低下すると予想しており、このリスクは低くないとみている。
── マイナス金利の解除には、円安に歯止めをかけたいという思惑が日銀にはあったのでは?
■それはあっただろう。米国の景気が想像以上に強く、年初に市場は24年の利下げを6回と予想したが、今では3回に減った。その結果、米国で利下げが始まらず、日銀が金融緩和を継続させることから日米金利差が縮むことなく…
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週刊エコノミスト
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