インタビュー③「賃上げだけを叫ぶ連合は罪だ」水野和夫・法政大学法学部教授
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三十数年ぶりのインフレと金利が存在する世界を迎える昨今、日本企業も賃上げに本腰で動き始めた。一方で低成長感は否めない。日本経済はどこへ向かっているのか。水野和夫・法政大学法学部教授に聞いた。(聞き手=浜條元保、構成=荒木涼子・編集部)
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──「物価は上がらない」という考えは変わってきているのか。
■現在のインフレは(ウクライナやパレスチナ・ガザ地区の)戦争の影響だ。日本の潜在成長率は0.6~0.7%で、つまり年間0.6%程度しか成長しない。加えて、実質賃金が下がる限り、物価が上がると(消費者は)困る。上昇分が企業利益に吸い上げられ、ますます消費は減る。よって長続きしない。
アダム・スミスの提唱
── デフレに戻るのか。
■ゼロインフレがいいところではないか。日本人は世界一の心配性で、心配になるほど貯蓄する。異次元金融緩和をやめたあと、長期金利(10年物国債の利回り)は0~1%で推移と思う。一方、銀行の預金金利は1~2%が妥当ではないか。現在、日本企業全体のROE(株主資本利益率)は9%だ。企業は株主資本の他に借入金も元にして利益を上げており、借入金の利子を1%とすると8ポイントも開いている。企業はこの8ポイント分のリスクを取っているだろうか。
経済学の父、アダム・スミスは1776年、『国富論』で「金利と利潤率は開いてせいぜい2倍まで」と提唱した。9%を6%まで下げ、3%分を金利に回しても十分ということだ。そうすれば銀行も、預金者(消費者)に還元でき、かつ自分たちの利益も得られる。
── ROEは6%で十分と。
■更に、過去の著名な経済学者の言葉を探すと、ケインズの「金利がゼロになったら土地の利回りより利潤率は低くなければならない」との言葉に行き着く。人間は、埋め立てという例外を除き、土地の新設はできない。つまり供給は決まっている。一方、資本は人間が作れるので、常に過剰になる可能性がある。絶対的に人間が作れない土地の利回りよりも、資本を元にする利潤率は低くなければならないということだ。
ケインズが言っていた当時は、不動産投資信託(REIT)という金融商品はないが、仮に土地の利回りをREITに置き換えると、現在はせいぜい4%。ケインズは「資本の希少性には本来的な理由はない」というのだから、資本が過剰になったら利子率はゼロになるといえる。要は預金を集める必要がない世界のことだ。
── 経済の持続可能性を考えると「金利はゼロ」に行き着くということか。
■資本を社会の共有財産としたマルクス主義は極端だと思うが、ケインズは「資本主義というのは、人類の…
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週刊エコノミスト
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