コスメもスマホも中国製がシェアを伸ばす“国潮熱”は「文革」の再来か 福島香織
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習近平政権は「中国文化に自信をもて」とするスローガンを打ち出した。その一方で外国文化を不当に排除するような動きが起きている。
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日本の若い女性の間で、中国の化粧品メーカーの口紅や頬紅を使った“千金小姐(お嬢様)風メーク”がはやっているらしい。私の友人にも「花西子」というブランドを使っている人がいる。2017年に発売になった中国コスメ(化粧品)のブランドだ。SNS(交流サイト)で実況中継しながら商品を売る「ライブコマース」で人気者になった李佳琦さんと提携し、中国以外の国でも愛用者が増えている。
中国の東海証券によれば、同国の化粧品販売額は昨年、中国ブランドが前年比21・2%増と急伸し、シェアが50%を超えた。一方、韓国ブランドは同26・1%減、日本ブランドは同17%減と落ち込んだ。同証券は「核廃水事件」の影響としている。東京電力が昨年8月、政府の方針に基づいて原発処理水を海洋放出した一件のことだ。中国政府は強く反発し、消費者の間で日本製品の不買運動が盛り上がった。
米調査会社IDCによれば、スマートフォン市場では中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)のシェアが昨年10~12月期、前年同期比36・2%伸びた一方、首位の米アップルは同2・2%減だった。中国政府が同社のiPhone(アイフォーン)を使う公務員向けの規制を強化したことが影響しているのだろう。
「四つの自信」
習近平政権の排外主義的な傾向が民間経済の動向に反映している。このような中国ブランドブームは「国潮熱」と呼ばれ、排外主義的指導とセットになっている。
中国の伝統文化と技術、中国要素を盛り込んだ製品やブランドを流行させ、西側文化の影響力を駆逐しようという国家戦略が明確になったのは、文化省(現文化観光省)が17年に発表した第13次5カ年計画に基づく文化産業発展計画だろう。習総書記が前年打ち出したスローガン「四つの自信(中国の特色ある社会主義の道、制度、理論、文化への自信)」を受けた政策だ。文化産業の担い手や企業に中国文化に自信をもたせ、「社会主義の核心的価値」を発揚して優秀な中国伝統文化を発掘、鼓舞すべしという内容だ。
文化観光省は21年の新計画で、中国が35年までに「社会主義文化強国」となり、国家的文化産業によって国民経済の発展をけん引すると定めた。
これらの政策を推し進めた結果、アニメ映画「羅小黒戦記」やドラマ「陳情令」(いずれも19年制作)などの優れたコンテンツが生まれ、国際的な「華流」(中国コンテンツブーム)が起きた。ただ、外国文化に対する排斥、不当なさげすみや迷惑行為を助長することにもつながっている。
例えば、海外の名所で漢民族の民族衣装「漢服」を身につけて撮影した写真をSNSで公開する中国人が19年ごろから急増した。私は同年12月、カンボジアのアンコールワット遺跡を訪れた時、漢服を着た中国人を数多く目にした。「なぜ外国で漢服を着るのか」とコスプレ姿の中国人女性に聞くと、彼女が住む「小区(人の出入りが制限された団地の区画)」には漢服を手作りして着用する趣味…
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週刊エコノミスト
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