データで見る「人口減少」四つの真相 天野馨南子
有料記事
人口減少を巡る誤解は、数字を見ず、感覚で語ることに起因する。正しいデータからは、全く違う少子化、婚姻像が浮かぶ。
>>特集「ストップ!人口半減」はこちら
真相1 減っているのは初婚夫婦の子どもではなく、婚姻数!
合計特殊出生率(TFR:Total Fertility Rate)を“夫婦が持つ子どもの平均数”と勘違いし、「最近の夫婦は平均1.3人しか子どもを持たなくなったのか。それでは、少子化が進むはずだ」と理解する人が少なくないが、間違いだ。
合計特殊出生率は、エリアの夫婦が持つ子ども数や、赤ちゃんの数を女性の数で割った平均値などではない。調査年の「年齢別出生率」(X歳女性が産んだ赤ちゃん数÷X歳女性数)を、15歳女性から49歳女性の分までそれぞれ出し、その値全てを足し上げて計算する。エリアの女性人口の年齢構造の影響を受けずに(例:40代の女性が圧倒的に分母に多ければ出生率が下がるといった影響)、そのエリアに住む1人の女性が一生涯に授かるだろう子どもの数を予想する統計指標である。当然ながら、エリア内の1組当たりの夫婦が以前と変わらない数の子どもを持っていたとしても、調査時に分母に占める未婚女性の割合が増えればTFRは低下する。
TFRとは別に、国が公表する「完結出生児数」という指標がある。初婚同士の夫婦が結婚後15年から19年程度経過して持っている子どもの数の平均値(サンプル調査)だ。これは、2021年の最新値でも1.90と、半世紀前と比べてもほぼ変わらず、夫婦は平均的に子どもを2人持っていることが分かる(図1)。
完結出生児数はサンプル調査だが、筆者が国の統計から全数調査して、出生数÷初婚同士婚姻数(婚姻当たり出生数)の変化を計算したところ、1970年は2.1人、22年は2.0人となり、日本の激しい少子化は、夫婦が持つ子どもの数の低下(2.1人→2.0人)ではほとんど説明できないことが判明した。
日本の22年の出生数は70年の出生数から4割の水準にまで下落している(60%減少)。一方、初婚同士婚姻数も4割の水準にまで下落し、半世紀の時系列でみた両者の相関係数は0.97と極めて高い(ほぼ正の完全相関)。つまり、「カップル成立なくして出生なし」が、日本の少子化問題の「正解」だ。
真相2 少子化度合いはTFRでは分からない
自治体のTFRを比較して少子化度合いの優劣を語るメディアや自治体担当者が後を絶たない。だが、これは絶対にやってはならない「禁忌」ともいえる行為だ。
少子化に関するニュースに接し、「おかしいな、限界集落ほど出生率が高いな」と、TFR比較に違和感を持つ読者もいるのではないだろうか。
そのエリアで生まれ育つ同じ母集団の結婚と出産動向の域内指標でしかないため、エリア間の人流があると「同じ母集団ルール」が適用されず、少子化度合いの指標としての意味をなさなくなる。東京都や全国の都道府県における一番若者が就職で集まる都市部は、「そのエリアで生まれ育っていない未婚女性」が主に就職時に横滑りで入ってきてTFR計算の分母に追加される。よって、少子化対策やエリアにもともと住む女性の結婚・出産動向に関係なく、横滑りの未婚女性の増加による未婚割合上昇でTFRは低下してしまう。
一方、就職で若い女性が出ていくエリアは、自動的に分母の未婚女性割合が低下して既婚割合が高…
残り2162文字(全文3562文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める