人口減の真実 1人当たりGDPも減少の恐れ 加藤久和
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同じ人口1億人でも、2055年の高齢者数は1953年の5.6倍。社会を維持するために、「稼ぐ人」を海外から招く必要がある。
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日本の人口は2008年をピークに減少を続けており、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(23〈令和5〉年推計)」によれば、70年の総人口は8700万人と現在の1億2615万人のおよそ7割にまで減少すると見込まれている(出生率と死亡率は中位推計)。人口減少は経済や社会のさまざまな側面に影響を及ぼし、多くは労働力人口の減少や社会保障制度の担い手不足など、ネガティブなものと捉えられている。一方、論者の中には人口減少はそれほど問題ではない、あるいは国土や資源に制約のある日本にとって最適な人口規模を目指すべきだとする見方もある。しかし後者の議論は人口減少の本質を捉えているだろうか。
図1は戦後の総人口の推移と上記の推計結果を示したものだ。70年の人口規模は8698万人の1953年の規模と、また1億人以上を維持する最後の年である55年の人口規模は1967年の規模とほぼ等しい。これをもって過去の人口水準が維持できるのであるから問題ないとする指摘もある。だが、決定的に違うのは人口の年齢構造だ。65歳以上人口比率は1967年の6.7%に対し、2055年が37.6%。高齢者は5.6倍に増える。
同時に理解すべきことは、人口は毎年変化するもので、一定の規模にとどめられないという点だ。これまでも最適人口という議論が繰り返されてきたが(そもそも最適な水準が定義できるとは考えられないが)、もしそのような水準が存在したとしても、維持し続けることはできない。人口の動きは増加でも減少でも、過去の慣性(モメンタム)を持つからである。
さらには、鎖国のように海外を対象とした人口の流出入がないと仮定した場合、現在の人口の規模を変化させないために出生数と死亡数を全く同じに保つことができたとしても、年齢構造を一定に保つことはできない。
高齢化で課税所得者は減少
人口を考える一つの視点としてその“規模”を問題とするかどうかがある。典型的な例として、マクロの国内総生産(GDP)と、1人当たりのGDPを取り上げる。経済学では1人当たりのGDPに焦点を当てることが多く、経済成長理論などではマクロの規模よりも重視される。
しかし人口減少社会では両者の意味に少なからず違いが生じる。1人当たりの経済成長率はマクロの経済成長率から人口増加率を引くことで求められる。前述の将来推計人口では2020〜70年の年平均人口増加率はマイナス0.7%となるので、マクロのGDPが毎年この割合で減少したとしても1人当たりのGDPの水準は維持されることになる。しかし、働き手が減り、扶養される高齢者の割合が高まる社会では、人口減少の速度以上にマクロでのGDPが速く減り、その結果、1人当たりGDPが減少することも考えられるので安心できない。
もうひとつの例として公的債務の問題も取り上げておこう。日本は多額の公的債務を抱えており、23年度末では国及び地方の長期債務残高はGDP比の215%となる見込みだ(24年度政府予算案より)。債務規模が変わらなければ、1人当たりの債務規模は漸増し、実質的な負担は増える。
そして、人口減少を考える上では時間的なゆがみと空間的なゆ…
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週刊エコノミスト
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