国際・政治 香港の姿
国安条例に根強い誤解 内外へ説明し不安解消を 江藤和輝
有料記事
中国による統制が強まっているとされる香港。香港市民はどう受け止めているのか。現地の日本人ジャーナリストが迫った。
「香港の独立性が損なわれる」「中国の監視が強まる」──。国家反逆などの防止を目指す「国家安全条例」(国安条例)が3月に施行されたことに対し、日米などのメディアはこうした論調で香港当局の対応を批判した。しかし、地元の日本語新聞『香港ポスト』の記者として、約30年にわたって報道に携わってきた筆者としては、強い違和感がある。なぜ国安条例が施行されたのか。地元ではどう受け止められているのか。現地の実情を伝えたい。
「第2の返還」
国安条例は、香港のミニ憲法とされる「基本法」に基づき、立法会(議会)で3月19日、全会一致で可決された。基本法の23条は国家安全保障の法律を、英国から中国への返還(1997年)の後に香港自ら制定するよう定めており、20年に施行された香港版国家安全法(香港国家安全維持法)=国安法=と、今回の国安条例の施行を「第2の返還」と受け止める香港市民もいる。
23条は「国家機密の窃取」など7種類の行為を禁じる法律を制定すると定めていたが、国安法は2種類しかカバーしていなかった。国安条例は残り5種類が含まれており、法の抜け穴を塞ぐ役割がある。
世論調査を実施する「香港民意観察研究中心」が3月、無作為抽出した市民649人(18歳以上)を対象に、電話で国安条例の妥当性を聞いたところ、70%以上が国家の安全を守ることは香港当局の憲法上の責任と回答した。国安条例の審議中、当局には計1万3147件の意見が寄せられ、うち1万2969件は条例を支持する意見だった。反対意見は93件だった。
市民が国安条例を支持するのは、19年に発生した大規模デモの記憶が残っていることもある。デモはそもそも香港の若者が台湾で起こした殺人事件が発端で、「民主主義の危機」とは直接的な関係がない。殺人容疑がある若者が香港に逃げてきたが、香港と台湾の間に容疑者を引き渡す協定がないため、逃亡犯条例を改正する必要があった。
この改正で容疑者を中国本土へ引き渡すことも可能になるため、大規模なデモに発展した。日本人にとっては「民主派」の若者たちがデモ活動に参加する姿が記憶に残っているかもしれないが、香港市民にとっては、商店の放火や略奪などデモに紛れた暴力や破壊活動で社会が混乱したトラウマが今もある。
…
残り1585文字(全文2585文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める