少子化対策優等生の欧州でも雇用環境に左右される出生率 藤波匠
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欧州の子育て先進国も政策効果の一巡後は出生率低下に直面している。持続的な向上には、良好な経済・雇用環境も欠かせない。
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2015年に100万人であった日本の出生数は、その後速いペースで減少が進み、24年には70万人を下回る見通しである。今後、国が示した将来の出生数(中位推計)を下回って推移する可能性が高い。
政府は、10年代に保育所の受け入れ枠を拡大し、待機児童はおおむね解消した。その後も男性に育児休暇取得を促すなど、子育て支援や少子化対策に注力してきたが、少子化に歯止めはかかっていない。政府は、「こども未来戦略」を策定して児童手当の拡充や保育環境の充実などを図る予定であるが、それらが少子化反転につながるかどうかは予断を許さない。
ここでは、欧州諸国の少子化の状況を概観し、日本の少子化対策のあるべき姿について考える。
大幅低下のフィンランド
欧州には、先進的な少子化対策を導入し、高い合計特殊出生率(TFR)を実現してきた国が少なくない。しかし、少子化対策のモデルとされてきたフランスや北欧諸国で、近年TFRが低下している。一方、少子化対策に後れを取り、以前はTFRが低かった国の中には上昇に転じた国もある。
図1は、OECD(経済協力開発機構)加盟国に関し、横軸に10年のTFRをとり、縦軸に20年までのTFRの変化率をとったものである。10年のTFRが乖離(かいり)したイスラエル(3.03)と、TFRの下落率が30%を超える韓国は、図中から除外した。
図では、10年にTFRの高かった国ほど高い下落率を示している。少子化対策の成功例とされたフランスや北欧諸国がこれらに該当する。フランスは1・79(20年)と比較的高いTFRを維持したが、子育て支援先進国として名高いフィンランドは1・87(10年)から1・37(20年)まで低下した。政策効果によって一時的にTFRを高めることができた国でも、その状況を持続することに、各国とも苦慮しているのが実情である。
少子化対策先進国において、特段政策メニューが変化したわけではないにもかかわらずTFRが低下傾向にある一因に、政策による効用が限界的に逓減していることがある。優れた少子化対策も、それがスタンダードとなった後では、目新しさがなくなり、再び少子化が顕在化したとみられる。
逆にドイツなど、10年にTFRが低かった国の一部には、上昇傾向がみられた国もある。少子化対策に後れを取った国の一部で、先進国で成果が上がったと目される政策を後追いで導入したことが奏功していると考えられる。
ドイツは05年以降、保育サービスの充実に力を入れてきた。加えて、子どもが小さいうちは両親に時間短縮勤務を奨励する金銭的インセンティブを設けたり、育休の制度を充実させるなど、仕事と家庭生活において男女が対等なパートナーシップを構築し、両親がより長い時間子どもと過ごすことを目的とした家族政策への転換に取り組んだ。
欧州では、こうした保育政策など少子化対策のほか、各国の経済・雇用環境も、TFRの変化に影響を及ぼしたと考えられ…
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週刊エコノミスト
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