パンデミック前後で出生率が低下し続けていた日韓 松浦司
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新型コロナによる出生率への影響は、先進各国で大きく違った。少子化対策への信頼がない国は、コロナ対策を打っても、低落傾向は止まらなかった。
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2020年に世界中に大きな衝撃をもたらした新型コロナパンデミック(世界的大流行)は、日本だけでなく先進各国の出生率に大きな影響を与えた。ただし、パンデミックが出生率にもたらしたショックとその後の出生率への変化は、各国で大きく異なるものとなった。はじめに、先進主要国(フランス、ドイツ、日本、韓国、スウェーデン、米国)のコロナパンデミック前後の合計(特殊)出生率の変遷を図1に示す。
平均的な出生率が最も高いフランスは、パンデミックで大幅に低下した。しかし、その後は急上昇してパンデミック以前と同様の水準を保つ。スウェーデンはパンデミック以前から低下傾向であったが、パンデミック期にはむしろ上昇した。しかし、その後は反動による低下があり、さらに以前に増して低下傾向を強めている。ドイツはパンデミック以前ではほぼ一定で、パンデミック期には上昇したが、その後は大きな上下変動があるが、パンデミック以前と同様の水準となる。アメリカはパンデミック以前から低下傾向でパンデミック期には低下したのちに反動によって回復したものの、全体的には弱いながらも低下傾向である。日本はパンデミック期に低下してその後の反動による上昇はあったものの、前後を通じて低下傾向が確認される。最も出生率が低い韓国は、パンデミック期の影響はほとんどなく、構造的な低下傾向が観察される。
地域による類似性も確認される。そこで、高所得国を①北欧(フィンランド、スウェーデン、デンマーク)、②中欧(ドイツ、オーストリア)、③南欧(イタリア、スペイン、ポルトガル)、④狭義の西欧(フランス、オランダ、ベルギー)+米国、そして⑤日韓の五つのグループに分けた(図2)。日韓はパンデミック前後で一貫して低下している。逆に南欧では急激な低下の後に急激な上昇をしたが、その後しばらく横ばい傾向を示し、その後上昇傾向だ。北欧では、パンデミック以前から出生率が低下傾向で、パンデミックで一時的に上昇したが、その後は急速に低下し、ドイツなどの中欧とほとんど差がなくなっている。
ここからわかることは、第一にパンデミックは合計出生率に対しても一時的に大きなショックを与えたことであり、第二にパンデミックが出生率に与えたショックの方向は各国で異なるものの地域性が観察されることであり、第三にショックとは別にパンデミック前後で一貫した構造的な変化も存在することである。
東アジアの低下傾向に構造的要因
それでは、パンデミックが出生率に与えたショックや出生率変化の構造要因が各国で異なる理由はどの辺にあるのか。日韓を含めた東アジアの出生率はパンデミック前後を通じて欧米の先進国より低く、さらに低下傾向でもあることから、構造的な要因であると考えられる。
構造的な東アジアの特徴として、子どもに対して高学歴志向が強く、教育に力を入れる傾向がある。教育経済学の始祖というべきゲーリー・ベッカーは子どもの質と数のトレードオフに着目して、子どもの教育投資を行うために子どもの数を制限するという理論モデルを考案した。また、東アジアでは男尊女卑の傾向が強く、女性の子育て負担が重いことが、出生率の低さにつながっ…
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週刊エコノミスト
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