インタビュー「キャッシュフローベースの経常収支は赤字だ」唐鎌大輔・みずほ銀行チーフ・マーケットエコノミスト
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「経常黒字だから、対外純資産が世界最大だから、日本は大丈夫」という議論は危うい。実際のキャッシュフロー(CF)ベースで見た経常黒字は、2023年の21.3兆円ではない。私の試算ではマイナス1.3兆円だ。
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貿易・サービス収支が9.4兆円の赤字になる中、第1次所得収支の大幅な黒字(34.9兆円)で、経常黒字を確保している。だが、この黒字は日本にはすべて還流していない。全体の4割弱の証券投資収益と2割強の再投資収益は、日本に戻っていないと私は推計している。
第1次所得収支の受け取り・支払いに関して、直接投資収益の「再投資収益」、証券投資収支収益の配当と債券利子等を控除したCFベースの経常収支は22、23年と連続赤字となった(図4)。CFベースの経常収支について、証券投資収支収益の配当、利子等すべてを差し引くのは現実的ではないとの指摘があるだろう。しかし、同じ条件で計算すると、10年前後までの貿易黒字が経常黒字の大宗を占めていた当時であれば、CFベース経常収支は10兆円前後の黒字があった。この頃は確かに円高が問題だった時期だ。
これが11年の東日本大震災の影響で貿易赤字に転じた12~14年以降は5兆~10兆円の赤字になっている。その頃も今と同様、大きな円安が進んでいた。貿易で稼げなくなり投資で稼ぐようになったことで経常黒字の水準自体は変わらなくても中身が大きく変わっており、それが円相場の動きに影響していることを理解すべきだ。
さらに恐ろしいのは、経常黒字に潜む「新時代の赤字」が膨らんでいることだ。サービス取引の国際化に伴い、サービス収支に大きな構造変化が起きつつある。インバウンド(訪日客)の増加による旅行収支(同3.6兆円の黒字)は日本の武器だが、その他サービス収支の赤字が問題だ。デジタル赤字という言葉が注目されがちだが、その中には必ずしもデジタルとはいえな…
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週刊エコノミスト
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