実質実効為替レートの低下が示す日本経済の“実力低下” 佐藤清隆
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輸出企業の生産性が低迷を続け国内物価も上昇せず、賃金水準も伸びない。円の実質実効為替レートが大幅に低下したのは、そんな状況が続いた結果である。
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2022年に歴史的と呼ばれるほどの円安が進行し、円の対ドル名目為替レートは同年10月に一時1ドル=151円台に達した。国際決済銀行(BIS)が公表する実質実効為替レートも1970年の水準まで低下(減価)したため、「円の実力が低下した」と新聞やメディアなどで繰り返し取り上げられた。本稿では、この実質実効為替レートの大幅な低下は円の実力低下ではなく、日本経済の実力の低下を反映したものであることを明らかにする。
円の実効為替レート
円の実効為替レートは、円の対ドル為替レート、円の対ユーロ為替レートなど、日本にとって主要な貿易相手国・地域の通貨に対する「2国間の為替レート」の加重平均値を計算したものである。この2国間の為替レートに名目為替レートを用いると円の「名目実効為替レート」を、実質為替レートを用いた場合は円の「実質実効為替レート」を算出することになる。
BISが公表する円の実質と名目の実効為替レートの動きを図でみてみよう。この図では1995年=100となるように実効為替レートを基準化して、二つのグラフを重ねて描いている。注意すべき点として、実効為替レートは私たちが普段目にする為替レートと定義が逆になっている。実効為替レートでは、数値が上昇すると円高(円の増価)を、低下すると円安(円の減価)を意味する。
円の実質実効為替レートは、70年1月の43.07から95年4月に111.35まで上昇した後、約30年間、一貫して低下傾向を示し、24年3月時点で40.68の水準まで低下した。これは70年の水準をも下回っており、「円の実力が低下した」ことの根拠とされている。
もう一つ、名目実効為替レートの推移もみてみよう。70年から95年4月まで、実質実効為替レートと同様に、名目実効為替レートも上昇を続けた。両者の違いは、95年以降の動きにある。名目実効為替レートは上下に変動しながら、21年初めまで基準年(=100)の水準を維持していた。その後、歴史的円安の進行により、24年3月時点で77.97まで低下しているが、実質実効為替レートのような大幅な低下はみられない。両者の動きが、これほど異なるのはなぜだろうか。
輸出企業の競争…
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週刊エコノミスト
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