法務・税務 エコノミストリポート

紅こうじ問題で露呈した機能性表示食品制度が抱える“深刻”な問題とは 木村祐作

消費者庁はどのような対策をまとめたのか。写真は記者会見する新井ゆたか消費者庁長官(筆者撮影)
消費者庁はどのような対策をまとめたのか。写真は記者会見する新井ゆたか消費者庁長官(筆者撮影)

 小林製薬のサプリメントを巡る健康被害問題。機能性表示食品制度のずさんな実態が浮かび上がった。

健康被害情報の報告義務化へ

 林芳正官房長官は3月29日、紅こうじ問題の対策を5月末をめどに取りまとめるよう関係省庁に指示。これを受け、消費者庁は4月19日、「機能性表示食品を巡る検討会」を設置し、所管する機能性表示食品制度の見直しに着手した。

 同庁の新井ゆたか長官は4月18日の記者会見で、「(検討会の議論は)機能性表示食品制度の信頼をどう確保していくのかが主眼」と説明したが、5月末までのスケジュールでは、制度を本格的に見直す時間がないため、実際は“応急措置”となる見通しだ。

 小林製薬の問題は、原因がまだ解明されていないため、具体的な再発防止策の議論が困難な状況にある。これまでに判明したのは、同社が健康被害情報を入手してから行政へ報告するまでに2カ月かかった点と、製造工程で何らかの問題が生じた可能性が疑われるという点だ。

 検討会は5月23日の最終会合で報告書案を取りまとめた。機能性表示食品の安全性対策を強化するため、健康被害情報の行政機関への報告義務化、サプリメントを対象にGMP(適正製造規範)による製造・品質管理の義務化、容器包装の表示ルール改正を柱に据えた。

 健康被害情報の報告義務化は、全ての機能性表示食品が対象で、サプリメントの他に飲料やスープ、菓子などの加工食品や生鮮食品も加える。報告義務付けは、基本的に医師の診断を受けた事例とするが、重篤な事例に限らず、軽症も含める。GMP義務化の対象はサプリメントに限定し、GMPの要件は通知(GMPガイドライン)に沿って設ける。

 容器包装の表示ルール改正については、機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)の違いを理解していない消費者が多い状況に対応するため、容器包装上で「機能性表示食品・届け出番号」の表示を目立たせる施策を打ち出した。同時に、いわゆる健康食品とも違うことを強調する必要があるとして、機能性・安全性の科学的根拠などの届け出情報が消費者庁ウェブサイトで確認できる旨を明記することも求めた。これに加えて、医薬品との飲み合わせや過剰摂取を防止する注意喚起を具体的に表示させることも提言した。

 このほか、現行制度では事業者による販売後の取り組み状況を把握できないため、健康被害情報の報告やGMPによる管理の履行状況について、更新を義務づける仕組みの整備を求めた。さらに、販売後に成分全体の同等性を担保する仕組みが必要とする意見も盛り込むなど、実質的な更新制の導入を提言した。

 これらの義務化は、食品表示法の内閣府令を改正して行う。機能性表示食品制度の「届け出ガイドライン」は、法的拘束力を持たないため、発売後に問題が見つかっても消費者庁は撤回を命じることができなかったが、内閣府令に機能性表示食品の要件を盛り込むことで“法令化”し、違反事例を排除できるようにする。さらに、自民党や公明党からも制度改正に向けた提言が寄せられているため、消費者庁は検討会の報告書を踏まえ、各党の提言も受け止めながら、政府全体のパッケージとしてまとめる方針だ。

ずさんな安全性担保

 機能性表示食品は、事業者が安全性・機能性の根拠を消費者庁へ届け出ることで、「体脂肪を減らす」などの健康効果を商品パッケージでうたうことができる。トクホのような国の許可が不要なため、事業者のコスト負担は大幅に軽減できる。このため、トクホの許可件数が延べ約1000件で頭打ちなのに対し、機能性表示食品の届け出件数は延べ約8300件にも上る。

 機能性表示食品制度はどのような問題を抱えているのか。食品の安全性確認の手法は、「食経験による評価」「公表済みの安全性試験結果による評価」「安全性試験の実施」などがあるが、機能性表示食品制度では届け出の大半が、費用を省ける「食経験による評価」となっている。この場合、食経験が十分にあることが重要だが、日本では何年以上、どの程度の地域で食されていれば十分かという目安がない。米食品医薬品局(FDA)は広範囲に最低25年の摂取を目安に置いており、2~3世代あれば十分としている国もある。

 目安がないとしても、消費者の多くは、数十年にわたり全国で摂取されてきたというイメージを持つだろう。ところが、10年にも満たない短い食経験で安全性を確認した…

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