「金利ある世界」で復活する日本経済・社会のダイナミズム 石川智久
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「金利ある世界」ではゾンビ企業は退出を迫られ、放漫財政は許されない。イノベーションを起こして生産性を上げ、効果ある政策に知恵を絞る。金利の復活は停滞した日本経済の「カンフル剤」になるかもしれない。
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日本銀行は、3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除した。わが国が金利のある世界、つまり通常の世界に戻るのは17年ぶりである。各方面では金利が与える影響についてさまざまな議論がみられる。
今回は利上げといっても超過準備への付利金利をプラス0.1%とした程度であり、経済への影響は今後の利上げペースにかかっている。日銀は緩やかに金利を上げることを考えている模様であり、当社では半年に0.25%程度の緩やかなペースで利上げが進むと予測している。そのため、物価上昇率が2%程度に落ち着いたとしても、先行き4年間程度は、実質金利はマイナスであり、すでに実質金利がプラスの欧米よりも緩和的に運営されるとみている(図)。
また、金融政策の影響が顕在化するには2~3年間程度必要というのが計量経済学的な分析からも示されている。こうしたことを考えると、一定の時間的余裕があるとはいえるだろう。もっとも、この時間的な猶予は永続的ではない。この余裕があるうちに企業・家計・政府部門でさまざまな対応を進めていく必要がある。
円安が早める金利上昇
一方で、引き締めペースが想定よりも速くなるリスクもある。その引き金は円安である。当社の試算によると、政策金利が伸縮的であった1980~90年代半ばには、消費者物価1%の上振れに対し、日銀は政策金利を1.2%引き上げてきた。これを今次局面に当てはめると、1ドル=160~170円で推移した場合、今年末までに0.25~0.5%の追加利上げが実施される計算となる。これは大幅な円安に伴う輸入インフレ圧力に進められた「悪い金利上昇」である。わが国としては、成長戦略の推進などにより、過度な円安の阻止と景気回復を達成して、「良い金利上昇」を実現する必要がある。良い金利上昇であれば、税収が拡大して財政も健全化に向かう。
こうした「正の循環」を生み出すには、イノベーションを起こし、生産性を上げて賃金の持続的上昇を実現することが必要である。特にわが国は既に人手不足時代に突入しており、労働投入拡大で経済を押し上げることが難しくなってきている。そのため、生産性の上昇がこれまで以上に重要になる。
次に金利がある世界を「企業」「家計」「政府」に分けて考える(表)。まず企業部門においては、有利子負債比率は低下傾向にあり、過去に比べて金利上昇の影響は受けにくくなっている。そのため部門全体としては過度な悲観は不要である。もっとも、①電気・ガス、②不動産業、③運輸業、④宿泊・飲食業などは有利子負債が大きく、金利上昇による悪影響は大きくなる。また大企業…
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週刊エコノミスト
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