インタビュー「今の円安を武器に日本へ投資を呼び込む政策が必要だ」清水順子・学習院大学教授
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国際収支は一国の経済活動の結果であって、原因ではない。なぜ、自動車や電機といったモノ(財)の輸出で稼げなくなり、過去の対外投資でしか稼げない国になったのかを今考える必要がある。結論を急げば、政府の産業・経済・金融政策の失敗だ。特に為替政策は財務省、金融政策は日銀、金融規制は金融庁というバラバラな体制に一因がある。
政府・日銀が円買い介入をしなければならないほどの円安になっているにもかかわらず、輸出が伸びない。特に世界金融危機後の1ドル=100円未満の円高を放置された日本企業は自助努力でそれを克服し、収益を上げられる体制を整えてきた。それがコスト削減を狙った東南アジアや中国への生産拠点移転や近年は需要地生産へのシフトだった。
日本の製造企業は、円安になった今も社内レートは実勢よりも円高水準に据え、価格を下げて輸出数量を増やすという行動はしない。現在享受している円安による為替差益は過去の円高局面で払ったコストを回収し、将来の円高に備えているという意識ではないか。
政策の失敗という意味では、ドイツとの違いを考えるといい。勤勉な国民性で物作りに優れている点で日独は似ている。しかし貿易黒字を維持しているドイツに対して、赤字が定着した日本との違いは何か。かつて円と並ぶ強い通貨マルクをドイツは捨てて、共通通貨ユーロ創設を主導。輸出入の約7割以上をユーロ建てにしているドイツの為替リスクは低減されている。
一方の日本は輸出の3割台、輸入に至っては2割台でしか円建てで取引できないので、常に大きな為替リスクに直面。しかも為替政策と金融政策がバラバラで政府・金融当局に適切な為替対策を期待できないとなれば、企業は自助努力するしかない。これらが現在のバランスを著しく欠く国際収支に表れている。
円安武器に投資呼び込む
嘆いてばかりいても仕方がない。対外投資一辺倒の状況を変えて、今の円安を武器に日本に投資を呼び込む政策が必要だ。米中対立はじめ世界の分断が進む反グローバリゼーションの中、サプライチェーン(供給網)の再構築が世界的な課題となっているのは日本にとって追い風…
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週刊エコノミスト
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