資源・エネルギー 物価・金利・円安

インタビュー「原発は水素製造用が選択肢に」橘川武郎・国際大学学長

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── 7月から電気料金が値上げされる(表)。大幅な円安により、火力発電で使う化石燃料の輸入代金が増大している。燃料費が安い原発をもっと稼働させざるを得ないのではないか。

■エネルギーの動向を細かく見ると、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、エネルギー価格自体が跳ね上がった。発電用一般炭のほうが製鉄用原料炭より高くなる、通常では起こらない現象が起きた。天然ガス、石油も同様に値上がりして、22年は主としては資源高によって日本の貿易赤字が膨らんだ。ただ、23年以降はエネルギー資源価格が落ち着き、ウクライナ戦争勃発時より安くなったにもかかわらず、電力料金が高くなるのは、ひとえに為替の問題だ。

── 将来の電源構成に関する国の方針を示す「エネルギー基本計画(第7次)」(以下、エネ基)策定の議論も始まった。第6次エネ基までの策定に関与してきた橘川先生の経験から、第7次エネ基策定で、為替の問題はどのように議論されるとみるか。

■エネ基策定の議論では為替の議論はあまり取り上げられないと思う。最優先のKPI(重要達成指標)は電力需要への対応だ。エネ基策定の議論に参加する委員の大半は原子力推進派であり、その基本的なロジックは電力需要の増大だ。第6次エネ基(21年10月閣議決定)では電気自動車普及への対応が強調された。第7次エネ基ではデータセンター関連で電力需要が伸びる、だから原発がないと困るという理屈になりそうだ。

機動力ない原発

── 諸物価が上昇する中で電力料金が値上げされると、低所得者層により重い負担がかかる。化石燃料の輸入代金が拡大すること自体さらなる円安を招く面もある。

■だからこそ、原発に批判的な人の一部からも「再稼働はやむを得ない」という意見が出てくるのだろう。日本の電力供給における火力発電の比率はほぼ7割。内訳は天然ガス35%、石炭30%、石油5%であり、いずれも輸入に頼らざるを得ないので円安になると貿易収支が悪化する。為替をエネルギー面から見た本質だ。

 そこで浮上してくるのが原発と再生可能エネルギーだが、供給割合を増やすのは容易ではない。まず原子力だが、機敏で即時性のある電源とはいえない。再稼働は、基本的に原子力規制委員会の判断と地元自治体の意向で決まるもので、政府は政策上の当事者ではない。昨年の猛暑でも10月までに稼働した原発は12基止まり。原子力規制委員会の許可が出ていた7基の中で、実際に稼働したのは、もともと稼働予定だった関西電力高浜1・2号だけだ。

── 東京電力福島原発事故(11年3月)以降、再稼働したのは加圧水型(PWR)だけ。沸騰水型(BWR)が動くと原発を巡る風景が変わってくることはないか。

■BWRが動くだけでは、風景は変わらない。世論を変える引き金になるかもしれないのが、原発を電力用として使うのではなく、水素製造用に使うことだ。原発の電気を使って、水を電気分解して水素を作る発想が必要だ。製造過程でCO₂(二酸化炭素)を出さない「カーボンフリー水素」になる。脱炭素を実現するには、水素が基幹技術だ。太陽光や風…

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