少子化対策・原発建設・研究開発に投資して円安を阻止せよ 小林俊介
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通貨安でも輸出が増えず、通貨安に歯止めがかからない。貿易部門の競争力の低い通貨が減価する国の抜本策を探る。
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円安は日本の国力低下の結果であり、原因ではない。従って、円安を食い止めることだけを目的として日本銀行に利上げを促す、あるいは資本規制を検討するというアプローチは、根本的に誤っている。そこで本稿では以下、円安の原因を理論とデータに基づいて整理したうえで、真に求められる処方箋を探っていこう。
まず、円安の真因をやや理論的に整理すると、「マーシャル=ラーナー条件の不成立」と、「バラッサ=サミュエルソン効果」の二つに集約される。
「競争力」低下が通貨を減価
「マーシャル=ラーナー条件の成立」とは、単純化して言えば「円安で輸出が増える結果として、貿易収支赤字が縮小する」状態を指す。この現象は「Jカーブ効果」と呼ばれることも多い。そして貿易収支赤字の縮小は、円売り圧力が縮小することを意味するため、同条件が成立している経済環境下においては、一方向的な円安の進展を抑止する、いわば磁力が働くのである。
しかし現在の日本経済において、この磁力は失われてしまっている。2013年から現在に至るまで、猛烈な速度で円安が進展したにもかかわらず、輸出は増えず、輸入は減らず、貿易収支赤字が基調として拡大を続けてきたことは歴史が証明している通りだ。事実、計量的手法を用いて検証してもJカーブ効果は、08年のリーマン・ショック以降全く検出されない。
その背景としては、三つの構造変化が挙げられる。第一がPTM(Pricing to Market)比率の上昇だ。すなわち、製造コストと販売価格を同じ通貨建てで設定し、為替変動が利益率に与える影響を極小化する企業行動が広まった。第二が、国際分業に伴う代替効果の低下だ。さらに第三の構造変化、人手不足が加わる。よしんば円安で輸出需要が喚起されたとしても、これに対応できる供給キャパシティーがなければ意味がない。そして人口動態に照らすと、日本の生産年齢人口は減少の一途をたどることが運命づけられている。
もっともJカーブ効果の消失は「円安が止まらない理由」でしかない。「円安が進展している理由」は、「バラッサ=サミュエルソン効果」に求められるべきだ。噛(か)み砕いて言えば、これは貿易部門において競争力の低い国の通貨が減価する効果である。貿易収支が通貨の実需を規定する以上、国際競争力が為替レートに直結するという命題は感覚的にも説得力を有している。
「ハイブリッド赤字」
改めて日本の貿易収支を振り返ると、1998年をピークに黒字が縮小し、現在に至るまで趨勢(すうせい)的に赤字が拡大している。赤字を最も拡大させている項目は鉱物性燃料を筆頭とした1次産品だ。日本の国力を低下させ、円安を進展させた最大の要因はエネルギー戦略の遅れであるといえよう。
かつてエネルギー資源の純輸入国であったが、シェール革命を通じて純輸出国に転じた米国、原子力発電を筆頭とした代替エネルギーへの転換を通じて自給率を大幅に改善したドイツから、日本が学ぶべきことは…
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週刊エコノミスト
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