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経済・企業 物価・金利・円安

日本の“途上国化”を防ぐために有力な三つの投資先 黒瀬浩一

中央下がTSMCの工場(熊本県菊陽町で2024年4月)
中央下がTSMCの工場(熊本県菊陽町で2024年4月)

 日本の優先課題は貿易黒字の削減から赤字の削減へと変わり始めている。そうしなければ、先進国でいられなくなる可能性が高い。

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 先進国と新興国を分ける金融市場の慣習的な基準として国際収支の安定性がある。先進国は安定するが、新興国は安定しない。安定しない新興国では、しばしば金融市場が不安定化して危機的な状況に陥る。原因は「国際金融のトリレンマ」にある。これは、自由な資本移動、金融政策の独立性、為替相場の安定性――の三つを同時に達成することは難しいことを意味する。

 先進国は、国際収支が安定するおかげで、この三つが同時に達成され、国際金融のトリレンマは発生しない。従って金融市場が不安定化することはめったにない。

 しかし、今の日本ではこのトリレンマが顕在化しつつある。円安を止めるために金融引き締めに追い込まれつつある現状は、もはや先進国の姿ではない。

モノの貿易で稼げない国に

 国際収支の中で最も重要なのが経常収支である。日本の経常収支は国内総生産(GDP)比で3~4%の安定的な黒字だ。中身を見ると、貿易・サービス収支(財・サービスの貿易収支)は大幅な赤字だが、海外に持つ資産から上がる利息や配当である第1次所得収支のより大きな黒字で補われて、全体として黒字を維持している。

 2010年ごろを境に日本の貿易構造は大きく変わった。財・サービスの貿易収支は黒字基調から恒常的な赤字基調になった。

 原因は大きく分けて四つある。第一に電気機器産業の凋落(ちょうらく)だ。同産業は、かつて自動車や機械と並んで日本の巨額の貿易黒字を稼ぐ一角だった。しかし、00年前後のアナログからデジタルへの切り替えの時代にグローバル化が重なり、産業構造が垂直統合から水平分業に移行する変化に付いていけず、産業競争力を喪失した。近年の貿易収支は赤字基調となっている。

 第二に石油など鉱物性燃料の輸入増大だ。石油価格の上昇に加えて11年の東日本大震災で原発の稼働を止めた影響は大きく、エネルギーの輸入額は大きく増加した。

 第三にデジタル赤字だ。GAFAMなど米国の大手テック企業が圧倒的に強い競争力を持つデジタル分野で、クラウドサービスの利用料、ソフトウエアの更新料、専門・経営コンサルタント料などを総称するデジタル赤字は年間約6兆円ペースとなっている。

 最後に食料品分野だ。エネルギーと同様に穀物価格が上昇した影響は大きく貿易収支は悪化基調が続いている。しかもエネルギーや食料、デジタル生活に伴う課金は、現代人の生活には必要不可欠なものだ。日本は、国民が普通の生活をするだけで、それを上回る輸出がなければ、財・サービス貿易収支は赤字になる体質なのである。

知財への投資を

 新興国には「国際収支の天井」がある。一般論として景気が良くなると消費が活発化して輸入が増える。すると貿易収支が悪化する。そして、貿易赤字が天井とされる一定規模に達すると、輸入の削減、言い換えれば景気を冷ますために利上げに追い込まれる。原因は冒頭に述べた国際収支のトリレンマだ。日本も1970年ごろまでの新興国だった時代には国際…

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