インドネシア開発最前線ルポ――新首都ヌサンタラ&高速鉄道ウーシュ 今井正之
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東南アジアで人口最多のインドネシアで新首都の建設が進む。現場では中国企業の影響が色濃く感じられる。
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5月中旬に10年ぶりにインドネシアを訪問した。同国の2020年国勢調査によれば、首都ジャカルタの人口は1056万人、人口密度は1平方キロ当たり1万5907人。同年の東京23区はそれぞれ973万人、1万5511人だったから、ほぼ同等の過密都市といえる。
ジャカルタは交通渋滞と排ガスによる大気汚染がひどく、夜遅くまで人通りが絶えない点は10年前と変わりはなかった。大きく変わった点は交通インフラに改善の兆しが見られたことだ。日本政府が約1400億円を限度とする円借款を供与して建設した地下鉄が19年に開業した。バスは都心部に新設された専用車線を走り、渋滞に巻き込まれなくなった。
任期が今年10月までとなるジョコ大統領は地下鉄のほか、新首都や高速鉄道の建設を進めるなど大規模なインフラ開発を推進してきた。2月の選挙に当選したプラボウォ次期大統領はジョコ政権の政策を継承すると訴えている。
東京都より広い新首都
ジョコ大統領は19年、ジャカルタから約1200キロ北東のカリマンタン(ボルネオ)島に新首都ヌサンタラを建設すると発表した。移転先を選んだ理由として、①洪水、地震、津波、森林火災、火山、土砂崩れといった災害リスクが少ないこと、②インドネシア東部の経済的平等性を高めること、③既存都市のバリクパパンとサマリンダに近いこと、④既存のインフラが比較的整っていること、⑤1800平方キロの国有地があること──を挙げた。
ジャカルタは地盤沈下が深刻だ。国際協力機構(JICA)の資料は「(ジャカルタの)北部では1970年以降最大で4メートル以上沈下するなど、世界でも稀(まれ)に見る速度で沈下している」と記す。主因は工場やビルが増え、地下水を過剰にくみ上げていることという。10年前のジャカルタ訪問時は大通りが浸水するのを目にした。ジャカルタの災害リスクも首都移転の大きな理由となった。
筆者はジャカルタから国内線に乗り、ヌサンタラの造成地へ飛んだ。新首都の空港は完成しておらず、人口69万人のバリクパパンにある空港に到着。約110キロ離れた造成地に向かう車中から森林やアブラヤシ農園、赤土を掘り返すショベルカーが見えた。反対車線にはダンプカーなど工事関係車両が目につく。ドライバーは「視察に来た政府関係者などの客を毎日乗せている」と話した。道中立ち寄った雑貨店で売っていたアイスクリームの値段はジャカルタの3倍だった。
大統領府は7月完成?
約3時間後、造成地の入り口に到着。取材許可証を提示して進むと、見渡す限り掘り返された赤土が広がり、土ぼこりが舞っていた。インドネシア新首都庁の発表によれば、ヌサンタラの総面積は2561平方キロ。東京都の面積を17%上回る壮大な計画だ。
4月12日付の『日本経済新聞』電子版記事には「大統領府の工事は7割以上終わり、7月前後の完成を見込む。8月の独立記念式典はヌサンタラで開く」とあったが、筆者が訪ねた5月中旬時点では、大統領府は屋根の骨組みが見えている状態で天井は完成していなかった。
インドネシア英字紙『ジャカルタ・ポスト』(電子版)は4月22日、「政府の計画では、閣僚の一部が早ければ7月にもヌサンタラに移り、9月には公務員1万2000人近くが新首都を住まいとする」と報じた。しかし、筆者が見た限りでは、建設関係者や公務員向けの住宅は少数が完成していたにすぎず、自家発電機で電力供給している状態だった。大統領府も公務員住宅も完成間近には見えず、完成までかなり時間がかかると思われる。
それらが完成した後は工期を5年ごとに区切って45年に新首都の建設が完了する予定だ。25~29年には租税を減免する工業団地、ホテル、大学を建設するという。そのほか、太陽光やバイオ燃料の発電所など環境に配慮した事業を誘致し、エコツーリズムをうたうリゾートも開発する。
新首都庁は建設費用のうち政府負担分を20%とし、残りは官民連携(PPP)や内外の民間投資でまかなう計画としている。政府負担分について、国営アンタラ通信の3月25日付記事によれば、新首都建設関連の予算執行額が22~24年度に71・8兆ルピア(約6900億円)に上ったという。
造成地に隣接する高台には新首都に投資する企業のパビリオンが建っていた。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は監視カメラと人工知能(AI)を駆使したスマートシティー構想、韓国の現代自動車…
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週刊エコノミスト
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