ベトナム共産党最高指導部の人事抗争は経済・外交に影を落とすか 石塚二葉
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東南アジア諸国で長く政治的安定を誇ってきたベトナムが揺れている。共産党最高指導部で辞任が相次いだからだ。
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2021年のベトナム共産党大会で選ばれた任期5年の第13期政治局員18人中6人が今年5月までに辞任した。3人は最高指導部に当たる「四柱」(党書記長、国家主席、首相、国会議長)の一員であり、もう1人は四柱に次ぐ序列5位とされる書記局常務だった(表)。これは多くの意味で衝撃的だった。
第一に、トップリーダーの辞任が相次ぐこと自体が異例だ。四柱の地位にある人物が任期中に辞任したのは、1945年以降のベトナムで第13期より前は1度しかない。
第二に、26年初めに予定される次回党大会まで2年という時期に、反汚職闘争の名においてリーダーが何人も政治生命を絶たれた。ベトナム共産党最高指導部でこのように激しい人事抗争が繰り広げられることはまれである。
第三に、特にボー・バン・トゥオン前国家主席とブオン・ディン・フエ前国会議長はクリーンな人物として、序列1位のグエン・フー・チョン書記長の有力な後継候補と見られていた。その2人に重大な汚職事件に関与していた疑惑が急浮上したことは、多くのベトナム人にとっても青天のへきれきだった。
第四に、これらの結果、チョン書記長の後継問題の行方が再び混(こん)沌(とん)としてきた。チョン書記長は今期、意中の人物に権力を禅譲する準備を進めてきたが、トゥオン前国家主席とフエ前国会議長の失脚で振り出しに戻ってしまった。
公式には明示されていないが、トゥオン前国家主席とフエ前国会議長の辞任の原因となったのは、それぞれ不動産開発のフックソン・グループとインフラ建設のトゥアンアン・グループに絡んだ汚職事件であると見られる。
ベトナム公安(警察)省は2月、フックソン社会長ら幹部を会計規則違反などの容疑で逮捕した。3月には、同事件に関連して、トゥオン前国家主席が地方党幹部を務めていた時の部下や、出身地の党幹部も逮捕された。その後、党中央委員会臨時総会と臨時国会が開かれ、トゥオン前国家主席の辞任を承認。最初の逮捕からひと月足らずの展開だった。
フエ前国会議長のケースはさらに劇的だった。フエ前国会議長は4月、大規模ミッションを率いて北京を訪問した。トゥオン前国家主席の失脚で共産党指導部の安定性が疑問視される中、フエ前国会議長の次期書記長候補としての地位が安泰であることを内外にアピールする狙いと受け止められていた。
しかし、公安省は同月半ば、トゥアンアン社会長ら幹部と地方公務員数人を入札に関する規定違反と贈収賄の容疑で逮捕。時を移さずフエ前国会議長の20年来の側近も関連容疑で逮捕された。そして4月中に党中央委員会臨時総会、5月初めに臨時国会が開かれ、フエ前国会議長の辞任が承認されている。
新国家主席が主導か
公安省は水面下で周到に捜査を進め、証拠を固めて一気に2人を追い込んだものと見える。ではなぜこのタイミングで動いたのか。多くの識者は、5月に就任したトー・ラム国家主席がカギを握ると見る。
ラム国家主席は16年に公安相に就任して以来、チョン書記長の反汚職闘争の実行役として剛腕を発揮し、体制の守護者としての公安部門の存在感を高めてきた。17年、ベトナムの工作員が、指名手配を受けていたベトナム人企業幹部をドイツで拉…
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