クーデターから3年で中間層が消えつつあるミャンマー 室橋裕和
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2021年のクーデター後、経済が壊滅的な打撃を受けたミャンマーでは20万人超が出国。日本にも大勢が渡航している。
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日本で暮らすミャンマー人が急増している。出入国在留管理庁(入管庁)のデータによれば、2020年末の3万5049人から23年末の8万6546人へと3年間で2.5倍に膨れ上がった(図)。
急増した大きな理由は、ミャンマー軍が21年2月に起こしたクーデターだ。軍はアウンサンスーチー政権の首脳らを拘束して全権を掌握し、民主派や少数民族との武力衝突に至った。ミャンマー人の人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によれば、軍事政権はクーデターの発生後、今年6月18日までの間に市民や民主化活動家5287人を殺害し、2万6882人を逮捕したという。
軍が民選政権を倒す事態に反発した欧米などが経済制裁を課し、外国企業が撤退したことなどで、ミャンマー経済は大きな打撃を受けた。世界銀行の月次報告書「ミャンマー経済モニター」(6月)は23年度の経済成長率が1%に過ぎず、「パンデミック(新型コロナウイルス感染症の世界的大流行)前の水準より約10%低い」とした。通貨チャットの対ドル実勢レートはクーデター直前の1ドル=1300チャットから今年6月初旬の4300チャットへと暴落した。
国民生活へのしわ寄せは大きい。国連開発計画が4月に公表したミャンマーの家計経済に関する報告書は「ミャンマーの中間層は消滅しかかっている」とし、貧困率がクーデター前の17年末の24・8%から23年末には49・7%へと6年間で倍増したと記した。
軍事政権の圧政、通貨暴落がもたらした物価高騰、収入の低下などが重なり、人口の国外流出が加速した。国連難民高等弁務官事務所はクーデター当日から今年3月末までに少なくとも4万8572人のミャンマー市民がタイに逃れたとする。
合法的に出国する人ははるかに多い。国営英字紙『グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー』の23年4月20日付電子版記事によると、就労目的の出国者はクーデター当日から23年2月28日の間に21.6万人に上った。渡航先別上位は①タイ12万人、②マレーシア3万9900人、③シンガポール2万4000人、④日本1万550人、⑤韓国8000人──だった。
申し込みサイトがパンク
在日ミャンマー人が急増したことは前述の通りだ。入管庁のデータによれば、20年末から23年末に5.1万人増えたうち、在留資格「技能実習」「特定技能」の取得者は46%を占める2.4万人。両資格を得て23年末に日本に住むミャンマー人は3.8万人に上る。
両資格のうち特定技能を得るには、就労分野別の試験に合格するなどして一定の技能水準を証明する必要がある。試験はミャンマーでも実施されるが、ミャンマーの最大都市ヤンゴンに本社がある人材紹介業J-S…
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週刊エコノミスト
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