資源・エネルギー 再エネ
水素社会への移行には広域ガスパイプライン網と地下貯蔵施設とガスTSOが必要だ 内藤克彦
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大都市を結ぶ都市ガス導管網を作れば、それを水素転換に利用できる。
日本の都市ガス供給体制は高コスト構造
2050年のカーボンニュートラル(炭素排出の実質ゼロ化)実現に向けて、5月には水素社会推進法も成立し、今後の水素利用が注目されるが、現状の政府のエネルギー基本計画では、水素の調達は、主に海外産水素を日本各地の液化天然ガス(LNG)港湾基地に陸揚げすることが想定されている。だが、全国に散在する約47カ所のLNG基地にいちいち陸揚げするよりは、欧米のように広域都市ガスパイプライン網を建設し、それを水素の利用にも活用すれば、経済効率性に優れた水素供給体制ができるのではないだろうか。
欧州連合(EU)では、天然ガス広域パイプラインを運営する「ENTSOG」(送ガス管理事業体“ガスTSO”の連合体)が、将来の水素流通を考慮した50年戦略を公表している。それによると、既存の天然ガス広域パイプラインを水素利用に転用し、EU内の再エネで生産した水素を流通させ、電化の困難な産業領域(鉄鋼や窯業など)の熱利用に供することを提案している。欧州では、ガスパイプライン事業者は都市ガス会社から独立しており、自らの企業戦略でパイプラインの運用・拡充に取り組んでいる。ガスTSOとは、そうした事業者を指す。通常、TSO(送電系統運用者)は、電力会社の送配電分離で生まれた送電系統運用事業者の意味だが、そのガス版がガスTSOだ。
欧州はパイプライン活用
日本も水素社会を目指すのならば、ENTSOGの戦略は参考になるのではないか。ENTSOG戦略の具体的な取り組みは、次のようなものだ。
まず、既存の都市ガス制度に水素を取り込み、バイオメタンの役割も強化する。現状の欧州ガスTSOの制度でも、水素やバイオメタンをパイプラインに注入できるが、さらに取り入れる方針を明確にする。次に、再エネが拡大し、電力需要に対する再エネ供給比率が拡大すると、電力需要の低い時期に再エネの大幅な出力抑制が必要となる。
こうした再エネの余剰電力が発生する場合は、出力抑制をせずに、水素の製造に利用する。再エネは性質上、各地に分散立地していくので、再エネ電力で生産された水素は、広域ガスパイプライン網でくみ取っていく。パイプラインの中を流れるガスは、当初は天然ガスに少量の水素、バイオメタンが混合する形(気体)にし、目標の50年が近づくにつれて、天然ガスの比率を低くし、水素、バイオメタンの混合割合を大きくしていく(図)。
これらの取り組みは、ガスTSOのガス供給サービスメニューに含め、合理的な料金原則を確立する。例えば、水素をそのまま都市ガス会社に渡すのではなく、二酸化炭素と水素を反応させて都市ガス主成分のメタンを生成する「メタネーション」によって作るメタンに変換して渡すことやパイプライン混合ガスから水素を分離して産業用に提供すること…
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週刊エコノミスト
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