経済・企業 空飛ぶクルマ最前線
➋eVTOLの生みの親はNASA 岩本学
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eVTOL機はNASAが開発をけん引し、ウーバーがビジネスモデルを提示して、実用化へ動き出した。
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空飛ぶクルマが「空陸両用車」でないことは開発中の機体を見ればすぐに分かるが、それでは「人を乗せて飛ぶ大きなドローン」か、と疑問を抱く人も多いのではないか。ドローンの技術が空飛ぶクルマに活用されており、また外観からドローンを連想させる機体も多いため、間違いではないが、空飛ぶクルマは有人ドローンであると捉えると、このモビリティーが持つイノベーションの本質を見誤ることになる。今回は空飛ぶクルマの位置づけを正しく理解するため、空飛ぶクルマが登場してきた歴史を振り返りたい。
空飛ぶクルマの英語名はeVTOL(electric Vertical Take-off and Landing、電動垂直離着陸機)であり、電気を動力とし垂直に離着陸することが可能な航空機だ。VTOL機とはヘリコプターやティルトローター機など垂直に離着陸できる機体を指す。特に固定翼を持つものをVTOL機と呼ぶこともあるが、ここではヘリコプターも含める。VTOL機が活躍する場面は軍事利用のほかには救急医療、海洋石油開発の支援、山岳地への物資輸送など特殊な用途が多いが、垂直離着陸の利点を都市内の旅客輸送に用いようとする試みはこれまで長年にわたって世界各地で挑戦されてきた。
ヘリ運航の限界
代表的なものはヘリコプターによる旅客輸送だ。ヘリコプターの開発は20世紀に入り本格化し、1940~50年代に実用化を迎え、第二次世界大戦末期や朝鮮戦争などで実戦投入された。垂直離着陸と空中ホバリングという優れた飛行特性を有するヘリコプターは、人類の移動の可能性を新たに広げるモビリティーとして大きな注目を集め、このヘリコプターを都市内の旅客輸送に活用する動きが米国を中心に始まった。最盛期は60~80年代でニューヨークやロサンゼルスなどの大都市で、ヘリコプターを使ったさまざまな航空会社が立ち上がり、空港とダウンタウンなどをつなぐ定期便を運航していた。同様の動きは日本を含む世界各地で見られるが、運航コストの高さ、稼働率・搭乗率の低さ、騒音の大きさ、事故の発生などが障壁となり、多くのヘリエアラインが運航を停止していった。
ヘリコプター以外にもティルトローター機などのVTOL機の開発が50年代から進められてきた。しかしながら、回転翼と固定翼の双方を持ち合わせるVTOL機の開発は内燃機関と複雑な駆動機構を使うこともあって技術的に難しく、ほとんどの機体が研究開発フェーズで終了し、実用化の段階まで到達したのはわずか数機種のみだ。防衛用途を前提に実用化に至った機体を民間向けにも活用する動きが90年前後にNASA(米航空宇宙局)とFAA(米連邦航空局)主導で始まったものの、実現することなく立ち消えとなってしまった。
多くの失敗を重ねてきたVTOL機による旅客輸送が再び盛り上がり始めたのは2010年代に入ってからだ。ドローンが登場し姿勢制御や遠隔操作技術が発展し、また自動車産業を中心に電動化技術が成熟する中で、これらの技術をVTOL機に適用する、具体的には内燃機関のエンジンと比較して構造がシンプルで操作しやすい電動の分散推進システム(DEP:Distributed Electric Propulsion)を用いた新しいタイプのVTOL機を設計・開発する動きが活発化し始めた。この動きをけん引したのがNASAである。Revolutionary Vertical Lift TechnologyやLEAPTechなど複数のプログラムを立ち上げ機体開発を進めるとともに、実現に向けた協議の場作りや市場調査、ロードマップの作成などを進めていった。
ウーバーの世界観が触発
その成果などを統合し、DEPを搭載し…
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週刊エコノミスト
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