経済・企業 最後のフロンティア
南極観測に協力する各国企業 空海の物資輸送に活躍 後藤慎平
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南極での研究競争に、世界各国が官民挙げてしのぎを削っている。日本も後塵を拝さないために、輸送手段での民間活用が求められている。
求められる日本の民間活用
1956年から日本も観測している南極地域。近年は、米国基地で衛星通信サービス「スターリンク」が利用可能になるなど、世界各国が官民を挙げて体制を強化し、「最後の大陸フロンティア」での研究にしのぎを削る。筆者は昨年12月~今年3月、第65次南極地域観測隊として現地に赴いた。6年ぶりの派遣だったが、各国の開発スピードに衝撃を受けた。
筆者がオーストラリア・フリーマントル港で南極観測船「しらせ」に合流したのは11月25日。しらせは、さかのぼること11月10日、母港・横須賀港を出発しており、飛行機で豪州まで駆けつけた筆者らを迎えてくれた。
今期は観測隊員と運航を担う自衛隊員を含めて約260人で、観測隊員は各自の研究テーマや任務を抱える。水中ロボット(ROV:Remotely Operated Vehicle)が専門の筆者は、ペンギン観察の際のROV観測や、リモートセンシング(遠隔測定)の検証を行った。
南極の12月は短い春の訪れを感じさせる季節。下旬にはペンギンのひながふ化し始める。日本から直線距離で1万4000キロ離れた昭和基地沖には12月20日ごろに到着したが、6年前に比べ天候が悪い日が多く感じた。実際、キャンプ地周辺には大量の雪が残っていた。越冬中の隊員からは除雪が進まないとの連絡もあった。南極は、年により全く異なる顔を見せる。
日本が南極に観測隊を初めて派遣したのは、1956年。以来、最近のコロナ禍では規模を縮小したものの、毎年度、観測隊を派遣している。活動はペンギンやアザラシ、オーロラや氷河などの自然環境の観察の方がイメージしやすいだろう。しかし、現地への物資輸送をはじめ、基地の維持・新設を行う機械・設営系の隊員、観測業務を滞りなく行うエンジニア系隊員の存在が非常に大きい。彼らの多くは、通信、建設、電気設備、車両メーカーなどの民間企業から派遣されている。
南極は、59年に国連で採択された南極条約で平和利用に限定(軍事や商業利用の禁止)されているため産業に直結する研究は皆無だ。それでも厳しい環境下に耐えうる建築資材の技術が日本の寒い地域の住宅に応用されるなど、企業の商業活動に関連がないわけではない。
昭和基地近くに中国拠点
そして、世界各国の南極観測事情は、日本とは圧倒的な差がある。例えば基地の規模を見ても、日本の基地が昭和基地周辺に集中するのに対し、米国やロシアなどは南極大陸全体に基地を設置している。近年では中国も動きを活発化させており、24年2月7日には5カ所目となる「秦嶺基地」の運用を開始した(人民網日本語版)。また、19年には排水量1万3996トンの砕氷船「雪竜Ⅱ」を新造・就航させているし、2年ほど前からは、日本の昭和基地周辺に、観測拠点を設置している。この他、基地の機能面で見ても、多くの国が基地の近代化やハイテク化、省エネルギー化に取り組む。
ここで肝心なのが、基地の増加や近代化には予算規模のみならず、輸送手段強化も欠かせないということだ。日本では海上自衛隊の砕氷船「しらせ」(排水量1万2650トン、全長138メートル)と、東京海洋大学の耐氷船「海鷹丸(うみたかまる)」(全長93メートル)が南極観測支援に当たるが、他国と同等規模の物資輸送や人員輸送には遠く及ばない。特に海鷹丸は学生の航海練習船で、しらせとは完全には行動をともにできず、昭和基地への実質的な輸送手段はしらせに限定されている。
民間輸送網に期待
しらせの輸送能力は約1100トンで、内訳は、研究観測に必要な機材のほか、食材や日用品なども含まれる。そのため、輸送できる建築資材に限りがある。さらに、観測隊の定員は約80人で、研究、報…
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週刊エコノミスト
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