高成長期待に実態が届かないインド経済 製造業・輸出産業の確立急務 池田恵理/佐藤隆広
有料記事
高成長が期待されるインド経済だが、課題は山積している。まずは、付加価値の高い製造業、輸出産業の育成が急務だ。
>>特集「沸騰!インド・東南アジア」はこちら
投票者数世界最大といわれるインド下院総選挙の結果が6月初旬に出た。下馬評ではモディ首相の与党インド人民党(BJP)圧勝かといわれていたが、ふたを開けてみれば、逆に大幅に議席を減らし、単独過半数を割ってしまった。そのために他の地方政党との連立政権の形でモディ首相の3期目がスタートするという、今後の政策運営に不安が残る船出となった。
こうした短・中期的な不安材料はあるものの、インドは現在、世界で最も勢いのある国といっても過言ではない。国際通貨基金(IMF)によれば、経済成長率は年平均7〜8%と世界一だ。厚い若年層(平均年齢は約28歳)に支えられた世界一の人口は、安価な労働力と巨大な国内消費市場を創出し、成長の大きなドライバーとなっている。長期的に見ても、現在、世界5位の国内総生産(GDP)は2030年までに日本とドイツを追い越し、第3位に躍り出ると予測されており、モディ首相も47年には先進国の仲間入りをすると宣言している。
こうした成長著しいインドのマクロ経済の状況は、米国や日本などの先進国や、経済が減速している中国などに比べて魅力的であり、今後、海外からの直接投資や証券投資を安定的に引き付けていくことが期待される。
急速な資金流入による都市部での資産価格急騰など、すでに見られるようなバブルのリスクがゼロではないため、新たな金融経済危機を起こさないための政策や規制が必要ではあるものの、海外からの資金プールの拡大によって、インドの国内企業は設備投資が増加し、更なる経済活動や株価などへもポジティブな影響が見られるであろう。また、外国直接投資を通じ、インドが特に必要としている技術移転加速への期待も高まる。実際、ビジネス環境改善指数(Ease of Doing Business Index)の改善や急速なインフラの拡大、また、多額の補助金供与を通じて、投資の呼び込みが盛んに行われてきた。
不安定な外国投資
しかしながら、海外からの投資は変動が激しい傾向にある。外国証券投資はコロナ禍以降、マイナスが続いている(図1)。外国直接投資もマンモハン・シン首相率いる統一進歩同盟(UPA)政権(04〜14年)時代と比較すると、14年からモディ首相の国民民主同盟(NDA)政権下では伸びが弱く、右肩下がりである。
また、現在のインドの経済成長は、IT(情報通信)と金融を中心としたサービス部門がけん引しており、製造業のシェアや伸びが弱いのが特徴である(図2)。世界銀行の別のデータでは悪化が顕著であり、製造業はGDP比で00年代にピークの17%を記録した後、22年には13%程度まで減少している。メーク・イン・インディア(Make in India)キャンペーンや生産連動インセンティブ計画(PLI: Product Linked Incentive)などの産業政策の実施にもかかわらず、その成果は乏しい。世界の工場となった中国は、GDP比でインドの2倍の約27%が製造業であり、そもそものGDPの規模の違いを考慮すると、大きく水をあけられていることがわかる。
インド国内でのデジタル化は非常に進んでいるといえるが、IT部門は基本的に海外の…
残り1380文字(全文2780文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める