週刊エコノミスト Online 歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話
❽噛み癖を直して歯の寿命を延ばす⑵ 林裕之
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対策として絶大な効果がある「咀嚼筋マッサージ」をしよう。
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虫歯や歯周病を防いで歯の寿命を延ばすには、歯磨きとプロケア(歯科医が施す専門的なケア)だけでは不十分です。歯や歯茎にダメージを与える歯ぎしりや噛(か)みしめなどの悪癖を是正することが不可欠です。
「咀嚼(そしゃく)筋マッサージ」は噛み癖対策に絶大な効果があります。図のように咀嚼筋(咬筋(こうきん)と側頭筋)を指先で軽くマッサージします。マッサージをすると上下の歯は自然に離れます。この時に触れる筋肉のコリ具合で自分の癖の強さもわかります。気がついた時にこまめに行うと、歯や歯茎を守るだけでなく頭痛や首、肩のコリが解消される場合もあリます。「痛気持ちよい」程度の力で1分ほどマッサージします。短い時間でこまめに行うのがコツです。
先日「咀嚼と認知症」についてある週刊誌の取材を受けました。その時、話を聞いている記者のエラ付近がピクピクと頻繁に動きます。典型的な噛みしめ癖です。咬筋の膨らみ具合からかなりの力で繰り返し噛みしめているのがわかります。歯や歯茎へのダメージがかなり大きそうです。
そのことを指摘すると、通っている歯科医で対策としてナイトガード(マウスピース)を作って使用しているとのことでした。しかし、起きている時の対策は知らないというので、咀嚼筋マッサージを伝授しました。その場でやってみて気持ちよさを感じたこともあり、続けると言っていました。
正しい噛み方指導を
この話に現行の歯科医療の欠陥が示されています。治療として歯をきれいに修復し、予防として歯磨きやプロケアで歯を磨き上げはしますが、正しい使い方(噛み方)の指導が抜け落ちているのです。手入れの行き届いた道具でも正しく使わないと減りも早く、故障もしがちです。歯も同じ。歯ぎしりや噛みしめは必要以上に強い力が加わります。歯や歯茎の寿命を縮めるだけでなく、咀嚼筋や顎(がく)関節へもダメージを与えます。歯は物を噛む道具ですので、それ以外の時はできるだけ使わない方がよいのです。そのための指導がなされていないのです。
詰め物やかぶせ物、入れ歯などを入れた場合も正しい使い方指導は必須です。特に骨に直接結合させるインプラントは要注意です。歯ぎしりや噛みしめなどの強い力をインプラントに加えることは禁忌です。インプラント体だけでなく、顎(あご)の骨にもダメージを与えその影響は甚大です。また、インプラントを入れてそれまで噛めなかった部位への感覚入力がよみがえったことで噛みしめを誘発することもあります。より注意が必要で、入れて終わりではないのです。
インプラントに限らず、噛み癖の対処法を予防や診療に取り入れているかどうかが、「良い歯科医選び」の条件の一つです。正しい手入れと使い方が歯を長持ちさせます。このシンプルでわ…
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