週刊エコノミスト Online 歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話

❾口腔内には善玉菌と悪玉菌がいる 林裕之

 虫歯菌や歯周病菌はさまざまな全身疾患と関わっている。

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 私たちは体の内外に生息するさまざまな常在菌と共生しています。中でも「脳腸相関」など腸内細菌と心身の健康に関する研究が進み、腸内環境を整える「腸活」関連の食品やサプリが売れているようです。ちなみに、糞便(ふんべん)の半分は腸内細菌かその死骸の塊だそうです。

 口腔(こうくう)内にも善玉菌と悪玉菌が混在しています。前者は乳酸菌(ミティス菌)などで、後者はカンジダ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿(りょくのう)菌、肺炎桿菌(かんきん)、インフルエンザ菌などです。虫歯菌(ミュータンス菌など)や歯周病菌(ジンジバリス菌など)も悪玉菌です。悪玉菌が食べ物や唾液と一緒に気道に入ると誤嚥(ごえん)性肺炎を起こし、高齢者の死亡原因になることはよく知られています。歯周病菌もさまざまな全身疾患と関わっていることが報告されています。

糖尿病と歯周病菌

 糖尿病は疾患が疑われる人を含めると、日本人の5~6人に1人(約2000万人)が罹患(りかん)しているとされています(厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」)。自覚症状がないまま進行し、重症になると人工透析や失明、足の切断など重篤な合併症を引き起こします。

 糖尿病の人に歯周病が多いことは以前から知られていましたが、逆に歯周病になると糖尿病が悪化することが明らかになっています。さらに、歯周病を治療することで糖尿病が改善することも分かってきました。糖尿病の人が1日2回以上うがいをすると歯周病に関連する菌が減って血糖管理が改善するという報告があります。殺菌・消毒効果のあるグルコン酸クロルヘキシジンを含むうがい薬が有効だそうです。

 今年1月の報道によると、大腸がんの患者さんの排便やがん組織を調べていくと、歯周病菌の一種であるフソバクテリウムという細菌が腸内で多く増殖していることが分かりました。この菌が大腸にすみつくと炎症を起こし、がん抑制メカニズムを邪魔して発がんに関与します。

 また、フソバクテリウムは大腸がんの発育、進行を早めるそうです。さらに、この菌に感染すると、抗がん剤や放射線治療が効きにくくなるといいます。フソバクテリウムはかなりの厄介者のようです。対策として抗生物質による除菌や歯周病の治療、糞便移植などの研究が進められています。

 歯周病はこの他にも図にあるような認知症、心臓病、脳梗塞(こうそく)、慢性腎臓病、早産・低体重児出産などの一因となります。

 口腔内細菌は唾液とともに体内に取り込まれ続けます。口腔内の悪玉菌をできるだけ少なくすることが全身の健康に欠かせません。歯磨き、1日2回以上のうがい(グルコン酸クロルヘキシジンを含むうがい剤)、歯周病予防プロケア、歯周病を誘発しやすい歯ぎしりや噛(か)みしめの改善を生活習慣として身につ…

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