国際・政治 毎日新聞「経済プレミア」より
米大統領選バイデン氏撤退 インフレに高まる国民の怒り 太田智之
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本記事は、毎日新聞のウェブサイト「経済プレミア」で「太田智之の『ホンマ』の経済」として連載中の1本です。関西生まれ関西育ちのエコノミストの太田さんが、世界経済の今をさまざまな角度から本音で解説しています。
「バイデン政権によってもたらされたインフレが米国を殺しつつある」
世界が注目した米国の現職大統領と前大統領によるテレビ討論会。バイデン大統領が前任者から引き継いだ危機的な米経済を回復させたと強調したことに対し、トランプ前大統領はこう述べて反撃した。
討論会はバイデン大統領の受け答えの変調などから、バイデン氏の大統領選撤退のきっかけの一つになった。異例ずくめの今回の大統領選だが、有権者の最大の関心事の一つが「経済」であることに変わりはない。
景気回復を実感できない庶民
生産性の向上に裏打ちされた高い成長率や過去最低水準の失業率、最高値を更新し続ける株式市場など、主要先進国がうらやむほどの強靱(きょうじん)性を発揮する米国経済。懸案だったインフレ率もピークに比べて大きく低下している。
しかし、その恩恵を実感している米国民は必ずしも多くない。それどころか、食料品や住居費といった生活に欠かせない財やサービスの価格上昇を受けて、中低所得層を中心に生活困窮に対する政権への批判や不満が高まっているのが現状だ。
実際、英有力紙の『ガーディアン』が実施した世論調査によると、72%の人が今もなおインフレ率は上昇していると認識。また回答者の56%が米国経済は景気後退局面にあると答えるなど、庶民の間ではいまだ経済に対する悲観的な見方が根強い。しかも回答者の58%がバイデン政権の失政が原因と指摘しており、選挙戦で民主党陣営が苦戦を強いられる一因となっている。
こうした政権批判の背景には、政権と庶民の物価認識に対するズレがある。確かにバイデン政権がPRする通り、インフレ率は低下した。しかし、物価が上昇していることに変わりはなく、庶民にとっては、「そもそもの物価水準の高さが問題!」というわけだ。
事実、2021年1月のバイデン大統領就任時から現在までの3年半で米国の消費者物価は2割近くも上昇した。対…
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週刊エコノミスト
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