神田真人前財務官が語り尽くした「日本経済の問題と未来」
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7月に退官した財務省の神田真人財務官は、国際収支を詳細に分析・検証することから日本の問題点をあぶり出すことを試みた懇談会「国際収支からみた日本経済の課題と処方箋」を開催した(2024年3月~6月)。さまざまな分野の第一線で活躍する有識者を招き議論を行った。懇談会を終えた神田前財務官(現内閣官房参与)に、懇談会の成果を聞いた。
Interview 神田真人内閣官房参与(前財務官) 「国際収支は国民一人ひとりが支払った税金のもっとも素晴らしい対価の一つだ」
「宝の山」という血税で作った経済統計を選りすぐりの専門家たちと読み解く作業を終えた神田真人内閣官房参与(前財務官)に成果を聞いた。(聞き手=浜條元保/荒木涼子・編集部)
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―― 懇談会を終えた感想は?
■参加した委員は達成感があり、いい議論ができたと言ってくれている。毎回、侃々諤々(かんかんがくがく)のすごい議論になった。一人の委員が話すと、必ず私がそれに対してコメントするといった双方向の議論ができた。毎回、時間超過でまったく時間が足りない状態だった。報告書は、実に多様な視座、観点からとらえられている。
旗幟鮮明な報告書
―― 奇抜な報告ではない。
■オーソドックスな政策に帰着した。分析した結果も処方箋も手品みたいな話ではない。国際収支の観点から多様な分野の第一線の専門家が議論した結果、より深い議論から、やらなければいけないことが再確認された。私的懇談会とはいえ、ここまで改革を旗幟(きし)鮮明にしたのは異例だ。
―― 懇談会をいつごろから開催しようと考えていたのか。
■国際収支を活用して、日本の経済社会の問題や課題を分析し、その対策を考えられないか、という発想は、20年以上前からあった。為替を担当していた課長補佐時代に国際収支も担当しており、これは「宝の山」だと気づいたからだ。実現するまでに時間がかかった理由は忙しかったから。予算編成などその時々の担当部署の仕事で手いっぱいだった。
もう一つの理由は開催のタイミングを誤ると、誤解されてしまう恐れがあると思ったからだ。懇談会は足元の為替動向とはまったく関係がない中長期的なスコープ。ただ、日本経済は国際収支から見れば脆弱(ぜいじゃく)とする議論が懇談会でされると、投機筋に「これは円安の要素だ」と足元の為替取引に悪用されるリスクがある。それを避けるためにもタイミングを考えた。コロナ後、インバウンド(訪日客)などがどれだけ回復するか、デジタルが普及していく影響はどうか、日本の金融政策がノーマライズ(正常化)されるか、新NISA(少額投資非課税制度)はホームバイアスに変化を与えるか、などを考えながら開催時期を探っていた。
しかし、海外子会社の利益の半分は現地に再投資される状況は変わらない。一方で、最初は輸入物価がけん引したが、その後、人手不足などで数十年見られなかったような賃金上昇が続き、日銀が3月にマイナス金利の解除や長短金利操作(YCC)を撤廃した。これらを見極めて、日本経済のレントゲン写真をとるようなイメージで、懇談会を3月から始めた。
―― 特に強調したいことは?
■全部だ。濃密な議論をギュッと圧縮した。前半はこのまま問題や課題を放置すると、危ういと警鐘を鳴らした。他方で危機感をあおるだけでなく、後半は前向きな改革をみんなでやろう、やればできると鼓舞する内容だ。改革の柱の一つとしたのは、新陳代謝の促進・労働移動の円滑化による生産性向上だ。これらは資本主義、市場経済では当たり前のこと。長年、それをやっていなかっただけだ。逆にずっと市場メカニズムが機能不全だった分、ダイナミズムが戻った時の伸びしろは大きい。
―― 日本はモノで稼ぐ力が衰えていると報告書を読んで痛感した。
■伝統的な考え方では、産業の中心は徐々に製造業からサービス業に移っていく。モノの輸出からサービスの輸出へと。さらには海外投資の「上がり」で稼ぐ姿へと変わっていくことになる。それ自体は悪いことではない。また、それが単線的に起こるかといえば、米国のトランプ前大統領のように、製造業の繁栄をうたうような歴史の揺り戻しもある。
ただ、日本に限らず無人工場や徹底したロボット化のように、製造拠点の誘致と雇用が以前のように結びつかなくなっている。また、生産過程のどこでもうけるのかと…
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週刊エコノミスト
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