私のこの1冊『円とドル』 歴史に学び為替を捉える名著 上川孝夫
有料記事
『円とドル』(吉野俊彦著、NHK出版)
戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。
>>特集「通貨を学ぶ本」はこちら
このところ、急激な円安をはさんで、円相場が大揺れである。円とドルの歴史を振り返ると、日本経済や国際情勢の変化とともに、相場も劇的な変動を経験してきた。1996年に出された本書は、戦後の代表的な日銀エコノミストが、この「円とドル」の壮大な歴史的パノラマを克明に描いたものである。円とドルの関係を学ぶには、相場の展開過程をたどりながら、その本体に迫るという「歴史的接近法」が優れていると著者は指摘する。その根底には、為替の問題を、専門家の手から一般読者に開放したいとの強い思いがある。
円とドルの関係は、明治初期の1871年に始まって以来、150年余りの歴史を持つ。著者は、過去の相場を特徴づけて、明治から第二次大戦前までは、一時期を除いて、「円安のうねり」。戦後は1ドル=360円の時期を経て、「円高のうねり」と表現している。
円高に慣れた世代からすれば、円安の時代があったことなど、意外に思うかもしれないが、戦前の日本は経常収支が赤字基調で、外資も導入されていた。19世紀末に貨幣制度のあり方が議論された時には、円安は輸出に有利だとの説が有力だった。1930年代初頭、昭和恐慌への対策として通貨の増発が行われた際、極端な円安が起きたが、それには投機的なドル買い、資本の海外逃避が関わっていたと指摘している。
戦後は徐々に円高へかじを切るが、円安の荒波を回避できたわけではない。70年代の2度にわたる石油危機では、経常収支が赤字となり、円安に転じた。80年代前半にレーガン米政権がインフレ抑制のために高…
残り844文字(全文1744文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める