私のこの1冊『円安が日本を滅ぼす』 超円安の理由と弊害を深く考察 河村小百合
『円安が日本を滅ぼす』(野口悠紀雄著、中央公論新社)
戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。
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2021年初頭には1ドル=100円台前半、22年初頭では同115円程度で推移していたドル・円相場は22年春以降、円安方向に大きく振れることになり、同年10月には1ドル=150円台まで円安が進んだ。その後23年1月にかけて、一時は同127円まで円高方向に戻したもののそれもつかの間、再び円安傾向が強まり、今年7月上旬には1ドル=160円台をつけていたのは記憶に新しい。多くのメディアはこの超円安の原因はもっぱら内外金利差だと書き立てているものの、本当にそれだけなのか。いぶかしむ読者にぜひお薦めしたいのが本書だ。
著者の野口悠紀雄氏は、「円安になると、企業利益が増加する。輸出産業から見ると、円ベースでの売り上げが増える一方で、原材料価格の高騰は製品価格に転嫁でき、また賃金を引き上げる必要がないからだ」とする。本書が刊行されたのは現在の超円安局面が始まって間もない22年5月。それ以降今に至るまで、信じられないほどの大幅な円安が進んだが、国内の経済界からは、ごく最近まで、円安に対する目立った批判や反論はおよそきかれなかった。物価上昇で庶民がどれほど困ろうとも、企業、とりわけ製造業の大企業の本音は、まさにこの点にあるのではないか。
円安が生み出した停滞
野口氏は続けてこう喝破する。「しかし、円安は技術開発を阻害する。このため、長期的に見れば、経済の成長を妨げることとなる」「00年以降、日本は顕著な円安政策をとった。その結果、輸出は増えたが輸入も増え、貿易収支は悪化した。また、賃金も…
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週刊エコノミスト
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