私のこの1冊『マネジメント・フロンティア』 実物経済の裏付けを失うドル・円 水野和夫
有料記事
『マネジメント・フロンティア』(P.F.ドラッカー著、上田惇生/佐々木実智男訳、ダイヤモンド社)
戦後、長くおびえ続けた「円高」も今は昔――。2022年以降の円安は、「安い日本」「貧しくなった日本」を象徴する存在となった。なぜ、円安が進むのか、なぜ、ドルは強いのか、円安に高まる関心や不安を契機に、通貨を学んではどうか。円、ドル、ユーロ、ポンド、人民元……国家や地域の威信である通貨を学ぶための最適な1冊を専門家に厳選してもらった。どれも通貨を理解するために欠かせない名著ばかりである。乱高下相場に惑わされないための読書だ。
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異次元金融緩和政策が始まる直前の2013年3月、ドル・円レートは1ドル=94.73円(月平均)だった。その後、ドル高・円安が急速に進み、24年7月3日には一時1ドル=161.94円まで円は売られ、1986年12月以来約37年半ぶりの安値をつけた。
変動相場制に移行後、12年までドル・円レートは日米輸出デフレーターで計算した購買力平価(PPP)に沿って動いていた。しかもPPPからの乖離(かいり)率はせいぜい1割程度であり、この変動幅を超えたとしても4~5年後にはPPPへの回帰性があった。しかし、13年以降、それは消滅した。
ドル・円レートのPPPへの回帰性が存在している世界はリアル経済(実物経済)が支配しているが、回帰性がなくなるとシンボル経済の世界となる。リアル経済とは労働力と資本を投入して実質GDP(国内総生産)を生み出す世界である。それに対してシンボル経済においては資本の自由化を通じて資産と資産の頻繁な交換を繰り返し資産価格を上昇させる。資産の代表が為替と株式である。ドル・円がシンボル化すれば、当然株価もシンボル化する。ドルが金とのリンクを断ち切った帰結が21世紀のシンボル化である。
市場で決まるドル・円レートがPPPへの回帰性があるということは、円はGDPを構成する名目輸出と実質輸出の比率、すなわち輸出デフレーターがアンカーとなっており、リアル経済がドル・円レートを決めていた。だが13年以降、10年以上にわたってPP…
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週刊エコノミスト
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