中間層拡大のハリス氏 減税&規制緩和のトランプ氏 どちらも棚上げの財政策 井上祐介
米大統領選で注目を集める経済問題。両大統領候補の経済政策を比較する。
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今年の米大統領選における有権者の最大の関心事は経済問題である。バイデン政権下では新型コロナウイルス感染収束により景気が急回復した一方、インフレが大きな問題となった。足元の物価は前年比では改善しているものの水準はいまだに高く、多くの有権者が苦しめられている。ここでは、民主党のカマラ・ハリス副大統領、共和党のドナルド・トランプ前大統領の経済政策を比較し、両大統領候補が目指す米国経済の在り方について考えてみたい。
ハリス氏はバイデノミクス継承
民主党のハリス氏は過去3年半にわたり、副大統領としてバイデン政権の中枢に位置してきた。そのため、バイデン大統領の政策の多くを引き継ぐと見られており、経済政策については「バイデノミクス」の継続が予想される。
振り返るとバイデノミクスには三つの柱があり、その第一は公共投資の拡大である。バイデン政権はインフラ整備、半導体などの重要技術のサプライチェーン、クリーン・エネルギーなどへの政府支援を積極的に行ってきた。
第二は労働者の権利保護及び支援である。労働者には組合への加入を促すとともに職業訓練機会の拡大などの教育投資も積極化した。第三は独占禁止法の運用強化による競争の促進である。巨大化するテック企業やヘルスケア企業などへの権力集中を牽制(けんせい)し、消費者の不利益となる企業行動や価格設定の取り締まりを強化してきた。
このように、バイデン政権は1980年代から続いた大規模減税、規制緩和、小さな政府からなる大企業偏重の経済成長策を見直し、中間層の拡大や労働者支援に重心を置いてきた。
ハリス氏が独自色を出すとすれば、「ケアリングエコノミー」への重点的な取り組みであろう。具体的には、保育の無償化、子育て世帯への税控除の拡大、有給休暇制度の導入、介護支援の拡充など、子育て支援や女性の就労を後押しする政策への関心が高い。また、住宅価格が高騰する中、住宅取得の支援や家賃の上昇率に一定の制限を設けるなど、住宅コストの抑制にも力を入れる意向を示している。国民が不満を抱えるインフレについては、食品や医療分野での過剰な値上げに厳格に対処することで物価の沈静化を図る見通しだ。
トランプ氏は米国第一主義
共和党・トランプ前大統領の経済政策の大きな柱は米国第一主義に基づく移民制限と関税政策である。移民政策では南部国境からの移民流入の阻止にとどまらず、不法滞在者の強制送還にも言及している。国土安全保障省によると、米国内の不法滞在者は1100万人と推計され、人口の3%に相当する。当然ながらその多くは労働に従事しており、トランプ氏の政策が実施された場合には、農業、建設、サービス業といった労働集約的な産業での人手不足が顕著になることが懸念される。
トランプ氏は輸入品に対して一律10~20%、中国からの輸入品に対しては60%の関税を課す考えを示している。関税を通じて、貿易不均衡の是正、国内における製造基盤や雇用の復活、諸外国の不公正な市場介入に対抗する考えである。また、輸出拡大と輸入抑制を狙い、低金利政策やドル安を求める考えにも言及している。こうした政策が実行された場合、消費者にとっては輸入品のコスト負担が増加し、商品購入における選択の幅が狭まるデメリットがある。
トランプ氏は減税及び規制緩和も重視する。来年末には2017年12月に成立した「トランプ減税」が期限を迎える。35%から21%に引き下げられた連邦法人税率は影響を受けないが、個人所得税の減…
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週刊エコノミスト
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