NTTドコモ「銀行参入」なら個人向け金融に“地殻変動” 高橋克英
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NTTドコモが銀行に進出すれば、メガバンクや他の大手スマホを巻き込んで、デジタル個人向け金融サービスの勢力図が大きく変わる。
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今年6月に就任したNTTドコモの前田義晃社長が、「銀行業への参入」についてたびたび言及している。その背景には、スマートフォン市場の飽和状態に加え、携帯料金引き下げや低価格プランによる通信事業の伸び悩みがある。このため、NTTドコモだけでなく、ソフトバンク、KDDI、楽天の大手スマホ4社は、金融事業など非通信事業を強化し、ポイント経済圏の拡大や顧客の囲い込みを急ピッチで進めている。
ソフトバンクがPayPay銀行とPayPay証券、KDDIがauじぶん銀行とauカブコム証券、楽天が楽天銀行と楽天証券を擁するなか、NTTドコモは今年1月にはマネックス証券、3月にはオリックス傘下の個人向けローン会社オリックス・クレジットをそれぞれ子会社化しているものの、大手スマホ4社の中で唯一、グループ内にネット銀行を持っておらず、金融事業で出遅れている。
グループ内にネット銀行があれば、預金や住宅ローンなどが提供できるだけでなく、顧客の資産データをマーケティングに活用することで、傘下のネット証券との連携による資産運用提案なども可能になる。ポイント優遇によってスマホ料金の支払口座だけでなく、クレジットカードやQRコード決済による決済口座の指定に加え、給与振込口座や住宅ローン口座の獲得も可能となる。
そして、これらをNTTドコモのdポイントによる「ポイント経済圏」と連動させれば、個人のメインバンクとして長期的な顧客の囲い込みが期待できる。実際、ソフトバンクはPayPayポイント、KDDIはPontaポイント、楽天は楽天ポイントを核に経済圏を構築しており、住宅ローンや決済口座などの取引を通じて個人顧客を囲い込んでいる。
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他社は共同設立か買収
現状は、ネット銀行を持たないNTTドコモは無論、大手スマホ会社のポイント経済圏の利用者であっても、給振口座や住宅ローン口座となるメイン口座は、楽天を除けばメガバンクや地銀にある場合も多い。メイン口座は住宅ローンやクレジットカード、電気料金などの引き落とし口座を兼ねる場合が多く、いったん獲得できれば長期間の継続利用が期待できる。
「NTTドコモ銀行」実現の手段としては、前田社長が言及するように、既存銀行の買収か、新銀行の設立が考えられる。新銀行を設立する場合は、自ら銀行免許を取得するため、完全に独立した事業展開が可能になる。その一方、システム構築コストに加え、ガバナンス体制の整備や金融人材の確保などでも高い水準が要求され、金融当局の認可を得るまでに時間がかかる点がネックになる。
実は、NTTドコモ以外の大手スマホ3社でも、単独で新銀行を設立した事例はない。08年6月からサービスを始めたauじぶん銀行は、KDDIと三菱UFJ銀行が共同出資する。また、楽天は09年2月に旧イーバンク銀行を子会社化して楽天銀行へ社名変更したほか、ソフトバンクは旧ジャパンネット銀行を18年2月に子会社化した後、21年4月にPayPay銀行へと社名変更している。
また、買収か新設かを問わず、大手スマホ各社は現在、100%出資の銀行子会社を持っておらず、銀行子会社の経営には複雑な力学が働く。例えば、PayPay銀行には三井住友銀行が21.54%を出資するほか、楽天グループの100%子会社だった楽天銀行は昨年4月に上場したため、楽天グループの出資比率は49.26%にまで下がった。
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週刊エコノミスト
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