経済・企業 中華越境EC
EUのファストファッション規制案は中華EC牽制が狙いか 北山未央
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欧州市場でも年々存在感を増すSHEINやTemuなど中華越境EC。欧州で進む環境・経済政策の行方も左右する。
表向きは欧州グリーンディールの一環
欧州連合(EU)理事会は6月17日、ファストファッション的なビジネスモデルに対し懲罰的な課金徴収を可能とすることをEUの「廃棄物枠組み指令」改正案に盛り込む提案を公式見解として採択した。環境配慮の観点から過剰消費・過剰廃棄を生み出すマーケティングや商慣行に問題があると指摘するが、欧州で急拡大する中国発のSHEINなど越境EC(電子商取引)を牽制(けんせい)する狙いも背景にあると考えられる。
提案はフランス、オーストリア、フィンランド、オランダの4カ国が共同で行っていた。廃棄物枠組み指令は廃棄物管理の大枠を規定する指令で、EU加盟国に対して強制力を持つ。特に、繊維と食品関連の廃棄物の抑制を強化することを目的に、昨年7月に欧州委員会が改正法案を提案し、今年3月には欧州議会が公式見解を採択していた。
欧州委員会の法案ではもともと、ファッションブランドや繊維生産者に対し、①繊維廃棄物の収集・処理費用負担を義務付ける「拡大生産者責任(EPR)」を導入すること、また②持続可能な繊維製品の普及を後押しするため、耐久性やリサイクル性の高さといった要件を満たす製品については、この費用負担を割り引くこと──などが提案されており、欧州議会の公式見解もこれらの提案を支持していた。
EU理事会の公式見解は、これらの点は支持したうえで、多くの衣服はまだ着ることができても廃棄されていると指摘。加盟国は過剰消費・過剰廃棄を生み出すブランドに対し、①の費用負担を懲罰的に割り増すことができることを明記した。耐久性やリサイクル性といった製品自体の要件だけでは不十分であり、マーケティングや商習慣を見直す必要性がEUレベルでも合意されたのは、大きな注目点である。
廃棄物枠組み指令の改正は、リサイクルなどを通じて資源を有効活用し、環境負荷を減らす「サーキュラーエコノミー(循環経済)政策」の一環であり、2019年にスタートした欧州グリーンディールの一部である。他にも、繊維製品に関連した環境政策の議論が着々と進んでおり、7月18日にはEU加盟国すべてにおいて売れ残った衣類や履物の廃棄を禁止する「エコデザイン規則」が2年にわたる議論を経て発効に至った。
急拡大するSHEIN
このような潮流に逆行するような形で、欧州市場で急拡大しているのが、SHEINなど中華越境ECである。SHEINは1日に1万点近くの新しいデザインをコンスタントに発表するほか、TikTokなどのSNS(交流サイト)のインフルエンサーを通じたマーケティングも行い、低価格の製品を大量に販売するビジネスモデルで特に若い世代を中心に市場シェアを伸ばしている。
ロイター通信によれば、昨年12月時点で欧州におけるSHEINアプリのアクティブユーザー数は6550万人で、22年1月から倍増している。EC分析を手掛ける独ECDBによると、SHEINの23年のオンライン売上高は88億米ドル(約1兆2700億円)で、スウェーデンのへネス・アンド・マウリッツ(H&M)の41億米ドル、スペインのインディテックスが展開するZARAの29億米ドルを超える。
いまや、SHEINはファッションオンラインストアとして…
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週刊エコノミスト
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