「囲い込み」へ進むポイント経済圏の合従連衡 冨田勝己/松原健太
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合従連衡が大きく進むポイント経済圏。その背景にはキャッシュレス化も絡んでいる。ビジネスや利用者にどんな影響が及ぶのか──。
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インフレや実質賃金の下落が進む中、消費者のポイントへの注目は高まっており、ポイントをためて活用する「ポイ活」という言葉も生まれている。野村総合研究所が2022年度に生活者1万人を対象に実施した調査では、主要なポイントプログラムである「Vポイント」「Pontaポイント」「楽天ポイント」「dポイント」「PayPayポイント」のいずれかを利用する人の割合が回答者全体の9割にも達している。
日本初の共通ポイントとなったのはTポイント(現Vポイント)である。Tポイントは、カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営するレンタルショップ「TSUTAYA」の会員カードを発展させる形で03年に誕生した。それまでも家電量販店や航空会社を中心にポイントプログラムはあったが、あくまでも自社のみを対象としたものだった。
そうした中で、Tポイントは企業グループを超えてさまざまな企業で利用可能な「共通ポイント」として画期的な存在であった。Tポイント付与の際に得られる個人の購買履歴に関する情報を、データベース化して提携先のマーケティングなどに活用するビジネスモデルで、今年4月には三井住友カードのVポイントと統合して新たな「Vポイント」となった。
その後、10年にはPontaポイントが始まり、現在は開始当初からの三菱商事のほか、ローソンやKDDIなども運営会社に出資する。また、14年には楽天が楽天ポイントを共通化し、15年にはNTTドコモがdポイントを始め、各陣営が共通ポイントを拡張しながら、それぞれに利用者を増やしている。世界に目を向けても日本ほど多数のポイントプログラムが存在している国・地域はなく、日本固有の形態となっている。
発行額は1.2兆円超
では、実際にはどれくらいのポイントが発行されているのだろうか。図にポイント、マイレージの年間発行額の推移を示す。民間部門による発行額は、20年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて微減したものの、全体的には右肩上がりで伸びており、22年度には1.2兆円超となっている。これは、キャッシュレス決済の普及が大きく影響しており、今後も民間発行額の成長傾向はしばらく続くと推察される。
また、19~22年度は政府によるポイントを利用した政策が多数実施されており、ポイント発行額を後押ししている。特に22年度は、マイナンバーカード普及に向けてカード取得者にポイントを付与するマイナポイント事業の影響が大きく、民間発行額の約8割に相当する規模のポイントがマイナポイント事業によって発行されている。
ポイントは消費者から見ると「オマケ」に過ぎないが、事業者目線では消費者のデータを収集し、消費者にアプローチするためのマーケティングツールとして重要な役目を果たしている。近年はポイントを中心とした経済圏(ポイント経済圏)を構築することがポイント事業者の潮流となっている。ポイント経済圏とは、同一のポイントをためる・使うことができる事業・サービス群を指し、消費者の囲い込み効果が期待される。
楽天ポイントを例に挙げると、楽天カード(クレジットカード)、楽天ペイ(コード決済)、楽天市場(EC=電子商取引)、楽天モバイル(通信キャリア)、楽天トラベル(OTA=オンライン旅行会社)、楽天銀行(銀行)、楽天証券(証券)などを自社サービスとして提供しており、グループ外ではファミリーマートやビックカメラ、ツルハドラッグなど多数の加盟店が存在する。
ポイント経済圏の取り組みは各社各様であるが、ポイント経済圏では取引額や取引回数の多い「キャッシュレス決済」「EC」「通信キャリア」「金融」「小売り」が中核サービスとなる傾向がある。ここ数年では、その中核となるサービスで欠落していた部分を穴埋めする動きが活発になっており、具体的な動向をいくつか取り上げる。
統合、BaaS、協業…
事例1 TポイントとVポイントの統合
今年4月にTポイントがVポイントと統合して新生「Vポイント」となった背景には、TポイントとVポイントそれぞれに加盟店やポイント事業者側のさまざまな事情が働いていた。Tポイントは共通ポイントの先駆…
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