技術革新・グローバル化・格差拡大・軍拡競争――第一次大戦前に重なる国際情勢 板谷敏彦
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経済的な相互依存や核兵器の存在など、第一次大戦前との相違点も少なくない。しかし、第一次大戦勃発時、誰も得をせず、割に合わない戦争は起こるはずがないと信じる人が多かった。
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現代の国際情勢は、第一次世界大戦(1914〜18年)前夜の状況と多くの点で相似している。しかしながら、歴史は繰り返すが、それは単に再現されるのではなく、技術の発達や社会の変化に基づく新たな要素が加わって新しいものになる。第一次世界大戦前と現代の国際情勢の相似点と相違点を通じて、両時代がどのように重なり合い、どのように異なるのかを考察したい。
第一次世界大戦前の国際秩序では、覇権国イギリスに対して、勃興国ドイツが経済力や軍事力などでその地位を脅かしつつあった。この対立は次第に緊張を高め、最終的には戦争へと至った。この既存の「覇権国」と「勃興国」の対立は、歴史家トゥキディデスが描いた古代アテネとスパルタの対立に似ているとして、「トゥキディデスの罠(わな)」として知られている。
現代も、覇権国アメリカに対して、その地位に挑戦する勃興国として中国が急速に台頭している。その対立は貿易や技術覇権、地域的な軍事力の競争という形で激化しており、特に南シナ海や台湾を巡る緊張が増し、両国間で直接的な武力衝突が発生するリスクが高まっている。
似ているが違うのは、当時と比較して相互依存が極めて強い点である。かつては、現代ほどの複雑なサプライチェーンや金融面でのグローバル化は見られなかった。このため、現代では完全な軍事衝突に至る前に、経済的な理由がより強くブレーキとして機能する可能性がある。
貿易、メディアも発達
技術革新とそれに伴うグローバリゼーションの進展は、両時代に共通する特徴である。第一次世界大戦前のヨーロッパでは、鉄道、蒸気船、電信の発展により、貿易や国際交流が加速し深化した。これを「第1次グローバリゼーション」と呼ぶ。国家間の結びつきは強まったが、同時に交通インフラや兵器の進歩により緊張も高まった。また、大量印刷技術の進歩は新聞をマスメディア化し、情報はあまねく国民に配達され、国民国家形成の一翼を担った。記事は国家による統制がなされた。
現代は「第2次グローバリゼーション」に当たる。鉄道、自動車、船舶、航空技術など物理的な移動手段の発達により、海外物流や旅行のコストが減り、経済的にも文化的にも国際交流はさらに加速している。浅草や京都、道頓堀など観光地が外国人であふれている光景は以前には見られなかったものだ。
また、インターネットの普及による通信コストの低下により、世界中の多くの人がリアルタイムで遠隔地の情報を得られるようになった。地域を問わず、欧州のサッカーリーグに興味を持ち、メジャーリーグ・ベースボールに関心を寄せる。世界で同じアイドルや映画が流行し、そこで活躍するスター選手や俳優の出身地や国籍は多様化している。
現代の技術革新は、単なる物理的な移動や通信の進歩だけでなく、AI(人工知能)やビッグデータといった新たな要素を含んでいる。インターネットの発展はサイバ…
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週刊エコノミスト
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