米国経済は強くインフレは収束しない 藻谷俊介
9月中旬に発表されたアメリカの8月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比ではプラス2.5%に低下した。一見するとインフレの沈静化が着実に進んでいるような印象を与え、米連邦準備制度理事会(FRB)もすかさず利下げに踏み切った。
しかし、高インフレが過去の話になったかのような世論の問題整理には陥穽(かんせい)がある。なぜなら粘着質だった家賃のインフレがやはり粘着質だったことが新たに見えてきたからだ。
アメリカのインフレ率が長らく3.3%近辺から下がらなかったことの主因はサービスセクターのインフレにあり、なかでも、その6割を占める家賃のインフレが5~6%の勢いを維持したためである。これは景気や雇用とは直接関係のない構造的インフレなので簡単には解決しない。
それを示すのは図1だ。CPIの中の家賃の推移は、6月に瞬間的に年率2.1%まで低下したものの、その後は粘着性をすぐに取り戻し、8月には春先以上の6.4%まで回復をしている。一時的にインフレ率が下がったに過ぎない場合、CPIのグラフは並行的に右へずれてクランク(違い棚)のような形状になり、前年同月比ではいったん下がるが、その後は下がり続けることがない。なぜなら趨勢(すうせい)的に勾配が緩やかになったわけではないからである。
そして、家賃のウエートが高いがゆえに政策判断の基準となるコアCPIもクランク型となっている。8月は3.4%となり…
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週刊エコノミスト
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